記者コラム 「多事奏論」 文化部(大阪)記者・河合真美江
うちの中がしーんとしている。チャッチャッチャッとフローリングを歩き回る足音がしない。飼っていた犬が4カ月前に死んだ。大型犬のゴールデンレトリバー、14歳だった。
ただいま~。玄関で声をあげても、しっぽをゆさゆさ振って出迎えてくれる姿はもうない。毎日の散歩もなくなった。ただ、あるじをなくした赤いリードは玄関にそのまま置いてある。手にすると、におう。あの子の生きたにおいがする。
「ずーっと ずっと だいすきだよ」(評論社)というアメリカ発の翻訳絵本がある。少年が飼い犬とともに大きくなり、でも犬の方が早く年老いて死を迎える。少年はいつも寝る前、犬に言った。「ずーっと、だいすきだよ」。犬を見送った後、そんなふうに気持ちを伝えていたことが救いになったと描かれる。
うちの犬が老いてきたころ…