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 歌島は人口千四百、周囲一里に充(み)たない小島である――。三島由紀夫の小説「潮騒」は、この一節で始まる。歌島のモデルとなったのは、伊勢湾の入り口に浮かぶ神島。漁師・新治と海女・初江の純愛物語の舞台となった。

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水平線から昇ったオレンジ色の太陽光が木漏れ日となり、監的哨跡のすすけたコンクリート壁に映し出された=2025年3月23日午前6時47分、三重県鳥羽市神島町、溝脇正撮影

【撮影ワンポイント】監的哨跡

 夜明け直後、建物に足を踏み入れると、水平線から昇ったばかりのオレンジ色の日光が木漏れ日となり、すすけたコンクリート壁で揺れていた。炎のような模様は偶然の産物で、魔法のような美しさ。自然の力とタイミングのおかげです。(溝脇正)

  • 【特集】いいね!探訪記

 島には小説に出てくる灯台や神社などが現存する。鳥羽磯部漁業協同組合の前常務理事で神島町内会長の藤原隆仁さん(69)が島を案内してくれた。

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海の神様「綿津見命(わたつみのみこと)」をまつる八代神社=2025年3月22日、三重県鳥羽市神島町、溝脇正撮影

 階段状の山道を進むと、コンクリートの無機質な建物にたどり着いた。旧陸軍が戦時中、試射弾の着弾点を確認した監的哨跡(かんてきしょうあと)。「その火を飛び越して来い。その火を飛び越してきたら」。裸の新治と初江は、たき火の傍らで抱き合う。

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島内の周回ルートのほとんどが坂道と階段だ=2025年3月23日、三重県鳥羽市神島町、溝脇正撮影
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「潮騒」のクライマックスシーンの舞台となった旧陸軍の監的哨跡=2025年3月22日、三重県鳥羽市神島町、溝脇正撮影

 中に入ると四角い穴のような…

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