高血圧の治療ガイドライン、どう変わる?

 みなさん、血圧をはかりましたか? 今回は、6年ぶりに新しくなる高血圧の治療ガイドラインのお話です。「行動につなげるガイドライン」にしよう、という決意が込められているのだそうです。ガイドライン作成委員長の大屋祐輔・琉球大学名誉教授に語ってもらいます。

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 前回2019年の治療ガイドラインができて、6年がたちました。ところがこの6年、血圧がきちんとコントロールできている日本人の割合は、およそ27%で、ほとんど改善していません。

 ガイドラインは、さまざまな診療のエビデンス(医学的根拠)をあつめた内容にするのが一般的です。でも、どうやらそれだけではうまくいかない。患者さんの行動につなげられない。「正しいことを言えば、世の中に受け入れてもらえる」わけではないということを痛感しました。だから、新しいガイドラインは「行動につなげる」ことを意識してまとめました。

 ポイントの一つ目は、血圧の目標値をシンプルにした点です。従来のガイドラインでは、年齢や持病などによって目標値が2通りありましたが、今回は、上の血圧と下の血圧が「130/80ミリHg未満」を目指すことで統一しました。その上で、高齢の人や持病がある人には、体調の変化をみつつ、少し緩やかにしてもよい、という注釈をつけています。

 これまでの研究から、「130/80」を超えると、脳卒中や心不全などのリスクが高まることが分かっている、という事実に即した形にしました。

血圧は130未満を目指そう!

 また、薬の使い方も少し見直しました。現状では、血管を広げる薬を使って治療するケースがほとんどですが、海外では広く使われていて、血圧を下げる効果も確認されている利尿薬や心臓の働きを抑える薬も、上手に使っていきましょう、ということをまとめています。

 高血圧の治療をしている人の中には、薬を3剤4剤のんでいるのに血圧が下がらないという人もいます。そうした場合には、作用の異なる薬の使用も検討してみることなどもすすめています。

血圧を下げる薬のポイント

 血圧の対策を考えるときに難しいのは、対象が広いことです。まだ高血圧になっていないけれど、ちょっと血圧が気になる、という人もいれば、いままさに治療を始めた人もいる。治療をしているけれどなかなか改善しない人もいます。かかわる医療や福祉の関係者も幅広い。そこで、新しいガイドラインでは章立てを「集団へのアプローチ」「個人へのアプローチ」「難しい高血圧の人へのアプローチ」という3部に分けた構成にしました。こんな診療ガイドラインは、世界でもめずらしいと思いますよ。

 個人個人の事情に寄り添う内容も充実させました。たとえば、将来妊娠や出産を考える可能性がある若い世代にむけた内容(プレコンセプション・ケア)や、フレイルがある高齢者に治療をするときの考え方などにも触れました。近年は抗がん剤治療によって高血圧が起こるケースもあるため、がん治療と高血圧、という項目も盛りこみました。

 高血圧管理・治療ガイドライン2025は、8月下旬に公開予定です。最新の情報は日本高血圧学会のホームページで紹介しますので、気になる方はのぞいてみてください。

 脳卒中や心筋梗塞(こうそく)などのリスクは、血圧をコントロールすることで減らすことができます。そのことを知って、すこしでも行動につながってほしいですね。

 次回は「睡眠と血圧」を考えます。9月に配信予定です。

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