臨床心理士の村中直人さん

 言うことを聞かない子どもに、怒鳴り散らしてしまう。そんな自分がやるせなくて、自己嫌悪……。それを何度繰り返したところで、親自身にも子どもにも「前向きな成長」はないといいます。「<叱る依存>がとまらない」の著者で、臨床心理士の村中直人さんに、親はどうやって「叱る」を手放し、子どもに向き合ったらいいのか、聞きました。(聞き手=鈴木彩子)

――そもそも、叱るとは、何なのでしょう。

 端的に言うと、叱る行為は、相手を変えることで、叱る側のニーズを満たす行為です。私は「叱る」を、相手にネガティブな感情体験を与えて、叱る人の思うとおりにコントロールしようとすること、と定義しています。

 叱るという方法を使うと、叱る側の望むように、事が早く進む。また、私たちが生まれながらに持っている「悪い人を罰したい」という処罰感情がみたされる。「充足感」が得られる。だから手放せなくなってしまうというのが大きな構造です。

 叱るときは、「相手が悪い」と思っていますよね。「規律違反をしている」「あるべき状態からずれてしまっている」から、処罰したい欲求を感じてしまう。

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――「叱る」には依存性がある、と著書で指摘しています。

 自分の意思ではやめられなくなっている状態、つまり、本当は叱りたくないけれど叱っている、わかっちゃいるけどやめられない、という状況は、依存(アディクション)の典型だと思います。

 これは、精神医学上の心の病だと言っているのではありません。誰でもどんな人でも、そうなることは十分にあり得ます。

背景に親の「満たされない」思い

――叱っても、「満たされた」という感覚は、自分はあまりないように感じます。むしろ、ただただ、苦しい。

 それは、そもそも慢性的な苦…

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