松江市の国宝・松江城近くで建設中の19階建てマンションが一帯の景観を損なうとして、周辺住民ら41人が12日、不動産会社など3社に対し、高層部分の建設工事中止を求める仮処分を松江地裁に申し立てた。景観の恩恵を受ける利益が法的保護に値するとした最高裁判決を根拠にした。
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松江市は戦災を免れた数少ない城下町の一つで、同様に国宝の天守がある長野県松本市、愛知県犬山市と共に「近世城郭天守群」として世界遺産登録もめざしている。松江ゆかりの文豪・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の妻セツをモデルに、29日から放送が始まるNHK連続テレビ小説「ばけばけ」の舞台でもある。
マンションは城から南東約200メートルの旧城下町にあり、京阪電鉄不動産(大阪市)が計画した。完成時の高さは約57メートルで、標高で比較すると松江城の天守を約3メートル上回る。
市長も高さ引き下げを申し入れ
仮処分の申立書によると、業者側は2022年以降、建築規制などを松江市に複数回確認。市側は「主な基準は、松江城から見たときに山の稜線(りょうせん)を超えない高さであること」と説明し、市の景観審議会も23年11月、この基準を満たしていると答申した。工事は24年3月に始まり、現在は13階付近まで建設が進む。完成予定は26年7月。
住民の反対論を受けて、松江市の上定昭仁市長が24年10月に高さの引き下げを業者側に申し入れたが、「採算面からできない」と拒まれたという。
申立書は、「市民は城周辺に高層建築物を建設することなく、城のある風景を守り続けてきた」としたうえで、東京都国立市のマンション建設をめぐって06年の最高裁判決が示した「良好な景観の恵沢を享受する利益(景観利益)は法律上保護に値する」との判断に触れ、「マンションが城周辺の景観を著しく損なうことは明白」と主張。近隣マンションと同等の地上44メートル(15階)を超える部分の建設工事をさせないよう求めた。
業者は「市の許可得て適法に進めている」
京阪電鉄不動産は朝日新聞の取材に対し、「申立書が手元に届いていないのでコメントできない」としたうえで、「建設に当たっての様々な法的な申請は松江市に提出して許可を得ており、適法に進めている事業だと認識している」とした。