人間関係って難しいですね。
人とのコミュニケーションが得意な方もいらっしゃるかもしれませんが、いくつになっても正解がわかりづらい、あいまいかつ高度なやりとりだなあと感じています。
- コラム「上手に悩むとラクになる」
たとえば、友達を食事に誘ったが、2回連続で断られた場面を想像してください。
1回ぐらいならたまたま日程が合わなかったのかな?と思えても、2回連続だと多くの人が、
「あれ? 何か自分は気に障ることをしただろうか」
とちょっと不安になりますよね。
しかし多くの人は、
「まあ、そのうちいいタイミングあるでしょう」とか、
「特に最近あからさまにその相手に迷惑をかけた覚えはないから大丈夫だろう」
「いや、人生にも時には、どんなに気をつけていても、距離をおかれることもあるよね」
などと思いながらも様子を見ているかもしれません。
食事の誘いを2回断られた…「私がやらかした?」
うまくいけば、次にその人と会えそうな機会にそれとなく近況を尋ねてみたり、共通の知人にその人の近況を聞いてみたり、何か他の話題を振ってみたりして、さらなる情報を集めながら、「これは私のせいか?」と探るでしょう。
心が健康的な時には、こうして私たちは多くの情報を集めながら、さまざまな視点からその事象を捉えて判断していくものです。
しかし、これが「最近嫌なこと続き」「ちっともうまくいかない」という方の場合にはちょっと変わってきます。
「あーあ、私がまたやらかしたんだ。こうして私はいつも他人とうまくいかないんだ」と早々に結論づけて、いろんな情報を集めようとしません。実際嫌われてしまっているかもしれませんし、そうでないかもしれませんが、そうした真偽を確かめることなく、「そうにちがいない」と決めてしまっている点が非常にもったいないのです。
「自分が悪い」は、多くの「チャンス」を失う
注意欠如・多動症(ADHD)の主婦リョウさん(架空の人物)もまさに昔からそれを繰り返してきた人です。
リョウさんは昔からADHDの特性もあり、友達からのメールや手紙の返事を先延ばしにして忘れてしまっていたり、お礼が遅くなったり、待ち合わせに遅刻したりということが重なり、友達を怒らせることが多くありました。そんなリョウさんのおっちょこちょいでズボラな一面を理解してくれた友達もいましたが、数人はひどく怒って突然絶縁をつきつけられたこともありました。そうした傷が残っているため、リョウさんは今も友達に続けて食事の誘いを断られると「ああ、また私が何かやらかしてしまっていて、相手を怒らせたんだ」と疑うことなく思い込んでいます。
リョウ「私って昔からそう。今度こそうまくやろうと思うのに、いっつもしでかす。何かまたやらかしたんだ」
ADHDがある人の多くにこの思考が見られます。
「また怒らせた」「嫌われた」「自分が悪い」と思うと、その人にそれ以上連絡を取らない方がいいのではないか。もう誘うべきじゃないんだろうと考えます。
すると、こんな結果が起こるのです。
・もしかして本当にリョウさんが相手に対してやらかしている場合、謝罪のチャンスを逃してしまう
・もしかしてリョウさんが相手から誤解されていた場合、弁解のチャンスを逃してしまう
・もしかして友人が大変な状況で困っているため食事に行く余裕がない場合、友人を助けあげるチャンスを失う
いかがでしょうか。
いろんな可能性は考えられるのです。なのに過去の失敗経験から「私が嫌われたんだ。相手を怒らせたんだ」と早々に結論づけると、失わなくてよかったはずの友情を失うかもしれないのです。これは一番悲しいことです。
心に円グラフを描いてみよう
これらの考え方の癖を認知行動療法では「自分への関連づけ」と呼んでいます。
自分への関連づけを修正するには、「やばい! 怒らせてしまった」ととっさに思った時に、頭の中で「相手が今回食事を断ってきた原因分析グラフ」を円グラフで想像するようにしましょう。
いつものリョウさんなら即座に「原因:私100%」でしょう。
しかし、あえて、他の原因の可能性を考えるのです。
「原因:相手の忙しさ50%、私30%、相手の体調20%」
こんなかんじです。
この割合は、正直に言いますと確かめようはありません。たとえ直接相手に食事に行かない理由を聞いたとしても「忙しいのよ」=「忙しさ100%」などと言われ、本当のところはわかりません。
なのでリョウさんが頭の中で描く原因分析グラフは、ただの予想に過ぎません。根拠はほとんどない、妄想かもしれません。
しかしここで大事なのは「私100%」と思い込まないことです。他の原因もあるかもなと考えられるかどうかが大事なのです。そうする意味でも、心の中に円グラフを描く癖をつけましょう。
仮に、「いや、どう考えても私やらかしちゃっているよ。100%だよ」という場合には、どうせ失いそうな友情ならば、それで自然消滅するよりは、謝罪するのはいかがでしょうか。
大人になると、けんかするとか謝罪するとか、そういう対立にエネルギーを消耗せずにそっと距離をおく人も多くなりますが、ここぞという失いたくない人には、ぶつかってみる価値はありそうです。
もしかすると、その何割かは自分の思い過ごしで、友情を失わずに済むのかもしれません。
自分への関連づけは、人間関係を保つために必要な心配でもありますが、あまりに地雷を避けるがあまり、誤解しあうのはもったいないことです。「いつも心に円グラフを」!
〈臨床心理士・中島美鈴〉
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。
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このコラムでご紹介した考え方のクセについてもっと知りたい方は、著者の本「悩み・不安・怒りを小さくするレッスン 『認知行動療法』入門」(光文社新書)もどうぞ。(臨床心理士・中島美鈴)