30歳代後半の女性が、診察室にやって来た。提供された精子を子宮に注入する人工授精で妊娠をめざしたいという。
不妊治療専門のクリニック。そんな患者は珍しくない。
「パートナーが女性なんです」
そう言われた。
「いけますよね?」
念のため、院長に聞いた。
ここで初めて知った。日本産科婦人科学会の「見解」は、こうした医療を「法的に婚姻している夫婦」にしか想定していないことを。20年ほど前のことだ。
大阪府藤井寺市に住む産婦人科医の藤田圭以子さん(56)は、その女性の悲しそうな顔を今も忘れられない。
同じように人工授精を求めて来た女性は、1人ではなかった。やがて、「女性カップルと子ども」について患者に質問するようになった。
子どもを育てる女性カップルはすでにいること、自分たちで産むには第三者からの精子提供に頼らざるをえないことを聴いた。
「患者さんから教わるって、おかしない? なんで医学部で教えてくれへんかったの?」と思った。
3月8日は国際女性デー。女性特有の病気を扱う一人の産婦人科医は、ある出会いから、医療との向き合い方を変えました。
次に勤務した病院には、頭を…