職人の手仕事にこだわる馬具で、北海道から世界をめざす――。日本にただ一つ残る馬具メーカー「ソメスサドル」は今年、海外に進出し、長い歴史をもつ本場・欧州をはじめとする市場に挑む。倒産の危機に陥った会社をなぜ引き継ぎ、どうやって立て直したのか。会長を務める染谷昇さん(73)に聞いた。

約60人の職人が働く工房。「同じ屋根の下で馬具とバッグ類の両方をつくっている。その相乗効果は大きいんですよ」=北海道砂川市、外山俊樹撮影

 ――なぜ馬具メーカーで働こうと思ったのですか。

 炭鉱町で生まれ、地域の人たちに育ててもらいました。前身の会社が「産炭地の復興」という公的な目的で発足していたので、その再建で地元のために精いっぱいがんばりたいという気持ちが強かったんです。父の存在も大きかったですね。私より9歳上の兄を引き連れて事業を引き継ぐ。自分もその力になりたいという思いだけでした。

 再建には、乗馬用馬具だけではままならないという判断がありました。革の切れ端を捨てずにコースターにしたり、ベルト製造を請け負ったりしました。

  • 北海道から世界へ 国内唯一の馬具メーカー会長「無謀な挑戦」の先に

 ――順調にいきましたか。

 そもそも私が一人、東京で営業を始めようなんてこと自体がかなり無謀でした。どれもうまくいかず、この世界でやっていけるんだろうかという不安の中にいました。そんな私を後押ししてくれたのは、やはり職人たちです。出張で地元に戻ると、工房でいつも一生懸命ものづくりに励んでいる。その姿をメジャーにしたいと、この集団を認めてもらえるような仕掛けを東京でつくりたいと、そういう気持ちを強くさせてくれました。

 ――競馬用の馬具やバッグの製造に乗りだすきっかけは。

 西ドイツの見本市に出展する…

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