能登半島地震で被災した石川県能登町の金沢大学理工学域能登海洋水産センターが復興に動いている。多くの魚が死んでしまったが、凍結精子を使ったり、稚魚の命をつないだりして養殖再開にこぎつけた。春にはサクラマスの出荷が始まる予定という。
九十九湾に面する同センターは2019年4月に設立され、養殖技術の開発で知られる。ホテル跡地を金沢大が買い取って巨大水槽を設置。町も約6億円を投じて鉄筋3階建て施設をつくり、研究に取り組んできた。
だが24年元日の地震で、高さ2メートルの津波が襲った。海水の取水管は破損し、揺れで地下水の送水管も断裂。敷地内に陥没や亀裂が発生し、主力のトラフグやニジマスはほぼ全滅したという。松原創センター長は「震災前の状態に戻すには数年はかかると思った」と振り返る。
同センターが力を入れてきたのが「オーガニック養殖」だった。たとえば養殖のトラフグはエラに寄生虫が付着することが多く、一般的には専用の薬剤を使う。同センターは環境面などにさらに配慮しようと、自然由来のカテキンを使って取り除く技術を確立している。
海水と真水でマスを飼育
サクラマスとニジマスでは、濾過(ろか)した海水と地下30メートルからくみ上げた真水を混ぜた環境で育てることで、感染症を防いできた。
状況が一変する中、研究の歩みを止めまいと、職員や留学生ら6人は取水管や送水管を自力で修理。亀裂や陥没も地元業者の助けを得て埋め直した。
養殖をめぐっては、トラフグは漁師が定置網でとったメスを譲り受け、凍結保存していた精子を使って受精させた。ニジマスやヒラメ、サヨリなどは生き残った個体を丁寧に扱って稚魚を育てる。サクラマスは北海道から稚魚を仕入れてしのぎ、春に出荷できる予定だ。トラフグも当初の見込みより2年ほど前倒しして26年中にも出荷ができそうだという。
恩を返して復興を後押し
これからについても思い描けるようになってきた。町には海洋深層水取水施設「あくあす能登」があり、松原センター長は「こことコラボした養殖にも取り組みたい」と話す。地元の若手漁師たちは、センターのアドバイスを受けながら陸上施設での養殖の準備を進めているという。
センターに近い縄文時代の真脇遺跡(国指定史跡)からは、漁具やイルカの骨などが出土している。松原センター長は「太古の昔からこの地では漁業が盛んで、現代の若手漁師たちは新たな挑戦を始めようとしている。地元に恩を返し、震災からの復興を後押ししたい」と語っている。
◇
〈おことわり〉当初配信した記事で、養殖トラフグのエラに付着する寄生虫を除去するのに「一般的にはホルマリンなどの薬を投与する」とあるのは誤りでした。農林水産省によると、海洋汚染につながる恐れのあるホルマリンは現在使用されておらず、一般的には専用の薬剤が使われています。記事を修正しました。