Smiley face
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談笑する伊佐治悠さん(左)と茅ケ崎北陵の浜田遼太朗主将=2025年6月27日、茅ケ崎市、中嶋周平撮影

 茅ケ崎北陵の投手だった伊佐治悠さん(17)はある日突然、朝起きられなくなった。

 2023年9月の定期試験の初日のこと。倦怠(けんたい)感に襲われ、頭が痛く、全身が動かない。

 必死の思いで登校したが、1科目めの英語の問題が頭に入ってこない。試験の途中で早退した。

 翌日も、その次の日も同じ症状が続いた。病院で検査を受けると、過去に新型コロナに感染していたことがわかり、「コロナ後遺症の可能性が高い」と診断された。「自覚症状はなかったので驚いた。まさか自分が」

 高いレベルで勉強と野球を両立したいと茅ケ崎北陵に入学し、1年生の秋からベンチ入り。リリーフとして勝利にも貢献した。そんな矢先の苦難だった。

 頭痛薬を飲んで通学したが、午前中の授業は休みがちになり、部活を続けることも難しくなった。それでも、チームメートは「待ってるよ」「またみんなで野球やろうな」とLINEでメッセージをくれた。

通信制高校に編入、チームメートの反応は

 でも、その年の12月、出席日数が足りずに進級が難しくなったことから、翌年4月に通信制高校に編入すると決めた。「野球ができなくなるのが一番つらかった。そのために入学したのに」

 転校する直前、部員全員が入るLINEグループを退会した。同学年向けの別のグループも抜けようとしたそのとき、メッセージが届いた。

 「伊佐治は仲間だから、グループを抜けないでくれないか」。他の部員も次々と同調した。

 伊佐治さんは、「学校は変わってしまったけど、温かい仲間に囲まれて、北陵に入ってよかった」と振り返る。

 学校を離れても関係は変わらない。

 昨年夏のバーベキューでは、「お前も行くに決まってんでしょ」とのメッセージ。スーパーで買った肉をみんなでたらふく食べた。

 伊佐治さんも「支えてくれたチームメートを最後まで見届けたい」と、公式戦はすべて応援に駆けつけている。

 印象に残っているのは、この春の地区予選だ。前日に「伊佐治の分までがんばるよ」と言っていた浜田遼太朗主将(3年)が本塁打を放った。「あの素晴らしいホームランを見せてもらえた時、野球の神様がいるんじゃないかと思った」

 チームは勝ち進んで、県大会の3回戦は4強入りした三浦学苑を相手に2―3と接戦を演じた。

 メンバーに勇気づけられて、伊佐治さんは今年の5月から、父が勤める会社の草野球チームに入った。症状も「ほぼ回復した」という。大学受験に向けて高校の授業の映像を見てから塾に通い、土曜日は草野球で汗を流す生活を送っている。

 最後の夏はもうすぐだ。浜田主将は「目標はベスト16。伊佐治と話すためにも勝ちたい」と笑う。伊佐治さんは試合に負けると「どう声をかけたらいいかわからない」と、こっそり帰ってしまうからだ。

 一方、伊佐治さんは「みんなにはプレーの一瞬一瞬を楽しんでほしい」と力を込める。「病気になってから、野球ができるのは幸せだって強く思う」

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