香川と岡山の島などを舞台とした3年に1度の現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭2025」が開かれている。瀬戸内の文化や暮らし、景観などに刺激を受けて制作された独創的な作品を紹介する。
マフマドマフ「潮返」
シャワシャワシャワ、ポーン、ウワーン――。
岡山県玉野市の宇野港近く。狭い入り口を抜けると、湯船のある空間に高低様々の音が響きわたっている。ここはかつて「港湯」という銭湯だった。
湯船の輪郭がぼやけるほど充満した水蒸気は天井に水滴を作り、床へとしたたり落ちる。床にあるマイクがその音を拾い、電子的に加工した音を再びスピーカーで流す。マイクに落ちる水滴を手で受け止めると、音は止まる。
作家のマフマドマフさんは中国・広東省の出身。作品名の「潮返(しおかえし)」を逆に書いた「返潮」は、中国語で湿ることを意味する。湿度の高い故郷と、この銭湯につながりを見いだして制作したという。
少しひんやりした銭湯に入ると、懐かしさと違和感が重なり合う。
宇野港(岡山県玉野市)【アクセス】
JR宇野駅から徒歩5分。直島、豊島、小豆島を結ぶ船もある。JR高松駅からは電車で約1時間半。