朝日新聞社が2020年4月に「ジェンダー平等宣言」を発表して5年。この間の朝日新聞のジェンダー報道や取り組みをどう見ているか、朝日新聞デジタル版「コメントプラス」のコメンテーターでもある法政大学の上西充子教授に聞きました。
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上西さんは今年2月、選択的夫婦別姓を取り上げた天声人語の中の「私としては、わが家族はみんな同じ姓であることを望むけれど」という一節について、「このひと言は、ないほうがよかったです。ざらっとした気持ちが残りました」とコメントしました。
この日の天声人語は、夫婦同姓は創られた伝統に過ぎず、別姓を求める夫婦の思いを受け止めて選択的夫婦別姓の議論を前に進めるべきだと書いたものです。同欄は男性2人、女性1人の論説委員が交代で執筆し、記事ごとの筆者は公表していませんが、上西さんは「自らの姓を変えることなく結婚した男性なら、悪気なくこのようにさらっと書いてしまうのではないか」と記し、「自分が改姓しなければならない可能性や、改姓後の社会生活で起こり得ることが、想像できますか」と筆者に問いました。
朝日新聞は2017年から国際女性デーを中心にジェンダーの特集を始め、関連記事の発信に力を入れてきました。ジェンダー平等宣言では社内の管理職に占める女性比率など、数値目標を設定して取り組んでいます。宣言以降、それまでの視点では出てこなかったような切り口やテーマの記事は確実に増えていると、上西さんは評価します。
その一方で、ジェンダー関連の記事を書いているのが女性に偏っているのではないか、数値目標を達成するだけで多様性が確保できたといえるのか、と指摘します。
「ジェンダー関連の記事の署名は女性ばかり目立ち、男性が少ないのが気になります。いくら記事の本数が増えても、男性が書き手の記事にジェンダーの視点が適切に反映されなければ、単純にこちらの木にはミカン、あちらの木にはリンゴがそれぞれ別々に実っているようなもので、多様な記事が増えたとはいえないのでは」
朝日新聞社はジェンダー平等宣言以降、「ひと」欄やオピニオン面の「耕論・交論」、論壇時評で取り上げる人や筆者の女性比率を毎年公表してきました。5年目の24年度は、目標の40%をクリアした項目もありますが、いずれも前年度を上回ることはできませんでした。
目標の達成にはまだ道半ばですが、上西さんは数字には直接表れない取り組みの重要性について、こう話します。
「例えば、女性記者が書いた性暴力の記事を読み、男性記者は『これまでの報じ方で良かったんだろうか』と気づき、報じ方を変えていく。女性記者も女性に肩入れし過ぎて別の視点を見落としているようなことがあれば、『いやいや、そうじゃないでしょ』と男性記者が指摘する。そうやって相互作用が起こるということが多様性の実現には大切だと思います」
もうひとつ、リスク管理の観点から上西さんが必要性を説くのは、これまでにも増して、ジェンダーの視点からチェックできる体制です。
ジェンダーに関する話題は、不適切な文脈や表現を伴って取り上げた場合には、一つの記事だけでも会社全体の信頼を大きく揺るがしかねない、と上西さんは警鐘を鳴らします。また、ネット上にあふれる排他的な論調や差別的な表現との向き合い方や扱い方についても、メディアとして今後ますます問われていくだろうと指摘します。
私たちがさらにジェンダー平等を進め、より多様な視点を読者・ユーザーに届けるにはどうすればいいのか。
上西さんは「朝日新聞の社内で、ジェンダー平等に関する一般的な研修や勉強会を開くだけでなく、性別、年齢、立場や分野などを超えて、直接対話できる場を増やしてはどうでしょうか」と提言します。
「それぞれ担う仕事も背景も違う人同士が顔を合わせ、互いを知り、思いやることで、自分にとっての当たり前は、他の人にとってはそうではないということがわかる。そうした話し合いを重ねることで、物事を論じるときにそれまでは見落としていた視点に気づき、多様な議論が生まれると思います」
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