スマホ規制の条例案を説明する愛知県豊明市のホームページ

【社説PLUS】社説を読む、社説がわかる

 「スマホの使いすぎに警鐘を鳴らす条例案」のニュースをスマホで読みながら、うなずいた人は少なくないと思います。条例案を議会に提出した自治体に限らないテーマです。どこに住んでいても、社会全体で、みんなで具体的に考えるきっかけにできないか。そんな思いから議論が始まった社説を、改めてお届けします。

連載「社説PLUS」

毎日のテーマに何を選び、どう主張し、誰にあてて訴えるのか。論説委員室では平日は毎日、およそ30人で議論し、総意として社説を仕上げています。記事の後半で、この社説ができるまでの議論の過程などをお届けします。

【9月1日(月)社説】

 1日の余暇のスマホ利用は2時間以内を目安に――。

 愛知県豊明市が全市民を対象に、スマホの使いすぎに警鐘を鳴らす条例案を議会に提出した。義務や罰則を科さない理念条例とはいえ、個人の生活に踏み込むもの。納得できる説明が必須だが、これまでの対応は心もとない。

 子育て中の市民の相談などがきっかけだったという。でも唐突な提案で、市に電話やメールで100件超の意見が寄せられている。「なぜ条例で使用を制限するのか」などと、否定的な意見が7割だ。

 市は強制はしないし、勉強や仕事の利用は除くし、家庭の話し合いの結果なら3時間でも4時間でもいい、としている。えらく柔軟な弁明だ。ならば逆に、わざわざ条例を決める意味は何なのか、と思えてくる。

 しかも対策は家庭のルールで、という。もともと多くの家庭が悩んでいる。市や学校がどうかかわるのか、具体的な説明が必要だろう。反発を招くだけでは、残念だ。

 香川県も2020年にネット・ゲーム依存症対策条例を施行した。家庭で話し合い、18歳未満の利用を1時間以内にしようというものだった。だが、昨年の調査で県内の中学生の65%が1時間以上オンラインゲームをしている。

 かけ声だけでは現実を変えられない。そもそも長時間の利用が健康にどう影響を及ぼしているのか。データを示さないと、規制も受け入れられない。本来は国が詳細調査して提示するべきだ。

 こども家庭庁の調査でも、10~17歳は平日5時間超もネットを利用している。学力との関係、ながらスマホの危険性など、ほかにも多くの懸念がある。海外では、オーストラリアが12月に、法律で16歳未満のSNS利用を禁じ、違反した事業者に罰金を科す。一律禁止の手法はともかく、国レベルの議論が必要だ。

 豊明市の条例の主眼は子どもだ。そのための問題提起、というなら、議会もまず当事者である子どもや保護者に実態を聴くところから、始めてほしい。

 親が乳幼児にスマホを見せるのはなぜか。人混みで泣かれて周りに迷惑がられるからか。ひとり育児で、家事から手が離せないからなのか。

 スマホを制限したら、子どもはどうするだろう。安全かつ自由に遊べる公園、運動場はあるのか。

 結局、子育てを温かく見守る地域社会、環境をつくっているか、ということにかかわっている。スマホに依存しない街づくりへ道筋を整えることこそ、自治体の責務だ。

この社説ができるまで 論説副主幹・伊藤裕香子

 移動中もトイレでも。スマホと共に過ごす時間があふれる時代、だれもが頭を悩ませる「長時間のスマホ利用」へ問題提起に踏み出したのは、名古屋市の東隣にある人口約6万8千人の愛知県豊明市でした。

 市の条例案は唐突にも見える提案です。行政の私生活への介入はもちろん慎重であるべきですし、何らかの規制をするならば、根拠も必要になります。

 テレビでは、時間を割いて番組で取り上げていました。8月30日配信の天声人語もこの条例案に触れ、「行政がそこまで介入するのは頂けないが、問題意識は分かる」「暇でいられず、私たちはスマホをいじり続ける。それによって、大切な何かが奪われると知っているのに」と記しました。

 担当した論説委員は社説づく…

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