夏に咲く③京都国際 西村一毅投手

 あの夏は、甲子園の主役だった。

 昨年の第106回全国高校野球選手権大会。京都国際の西村一毅(いっき)(3年)は、決勝のマウンドに立っていた。

 0―0の延長十回タイブレークで代打として登場すると、意表を突くバスターで左前安打。待望の勝ち越し点につなげた。その裏の投球で関東第一(東東京)の反撃をしのぎ、歓喜の中心で両手を突き上げた。

 「あの時のチェンジアップは打たれる気がしなかった」。最速143キロの伸びのある直球に加え、打者の手元で落ちる決め球を駆使し、計24回を投げ2完封で計1失点。まさに無双状態だった。

  • 5年連続でプロ出した京都国際 指導の原点は韓国人留学生との出会い

 「先輩のおかげで、すごく良い経験と成長をさせてもらった」。そして、「自分が新チームを引っぱるような存在になりたい」。そう誓った夏でもあった。

 異変が起きたのは、その直後だ。

 甲子園で武器の一つだったスライダーが操れない。「キレもなくて、曲がらなくて、球も遅い。とにかくダメでした」

 試合にも影響した。投げる球種が一辺倒になってしまい、狙い打ちされた。昨秋の府大会は4回戦で延長十一回を2失点完投したが、タイブレークの末に敗戦。近畿大会への出場を逃し、3季連続の甲子園となる今春の選抜大会に出られなかった。不調の原因が分からず、「もうダメなんかな」。焦りだけが募った。

 転機は今年4月、U18(18歳以下)高校日本代表候補合宿に招集されたこと。同世代の好投手がそろう中に、明徳義塾(高知)の池崎安侍朗(あんじろう)(3年)がいた。

 池崎の特長は鋭く曲がるスライダーだ。「選抜に出た池崎君をずっとテレビで見ていた」と西村。人見知りだが、合宿初日に池崎に思い切ってたずねた。「スライダー、どう投げてるん?」

 池崎は「こうやって、しっかりベタ付けして持っている」と、深くボールを握る様子を見せてくれた。西村がブルペンで試すと、ぐんと曲がった。池崎は「自分よりキレが良かった」と笑う。

 西村は「優しくてクールでした。本当にありがたい」と振り返る。これをきっかけに、少しずつ調子が上がり始めた。

 昨秋から背番号は「1」。自身が夏の連覇をねらうチームの鍵になることは自覚している。ライバルたちも日々、進化しているが、エースは改めて目標を口にする。

 「もう一度、甲子園で投げたい」。この夏、再び主役になってみせる。

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 今春の選抜大会に出場できなかったが、全国には強打者、好投手がまだまだいる。夏こそ大輪の花を咲かせようとレベルアップを図る注目選手たちを紹介する。

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