(16日、第106回全国高校野球選手権大会3回戦 関東第一3―2明徳義塾)
今春から新基準の「飛ばない」バットになり、点が入りにくくなったとされる高校野球。3回戦で対戦した関東第一(東東京)と明徳義塾(高知)の両監督も、ロースコアの戦いになると予想していた。
関東第一の米沢貴光監督は「簡単にカンカン打つのは難しい。うちはもともと打てるチームではない」と投手戦を覚悟。「攻める野球を貫く」としていた明徳義塾の馬淵史郎監督も「(バットが変わり)長打を打って一気に本塁にかえって来られるわけではない」と、大量点は期待していなかった。
両監督の想定通り、試合は息詰まる展開になった。勝敗を大きく左右したのは、「流れが変わりやすい」とされる暑さ対策の10分間のクーリングタイム明けのバントの攻防だった。
2―2で迎えた六回表、先攻の関東第一の米沢監督が動いた。
先頭の3番坂本慎太郎(2年)が四球を選ぶと、東東京大会2本塁打の4番高橋徹平(3年)に送りバントのサインを出した。
一塁上の坂本は「え?」と驚いたが、「今日は(チームが)打てていない」とすぐに監督の狙いを察した。
守る明徳義塾。馬淵監督は高橋の犠打の構えに「(4番が)バントはラッキー」と考えた。バッテリーに「させていい」と指示した。
だが、投球はボール先行。高橋がバントをしないままフルカウントになり、きわどいコースに投げにくくなった。
7球目。高橋がバントの構えからバットを引いて打つ「バスター」で甘めの直球をたたいて右前安打に。無死一、三塁で次打者・越後駿祐(2年)が中前適時打を放ち、決勝点となった。
馬淵監督は試合後、クーリングタイム明けに守る難しさを語った。「六回だけは先攻がええ。六回だけは後攻が嫌なんよ」
七回裏、今度は明徳義塾がバントで攻める。連続安打で無死一、二塁。馬淵監督は4番に代打を出し、送りバントを指示した。
これに対し、関東第一のエース坂井遼(はる)(3年)は3球連続でストライクゾーンに投球。バントの打球を処理し、三塁封殺にした。二塁手小島想生(3年)、三塁手高橋の好守もあり、この回を無失点に抑えた。
互いが1点にこだわる中で、明暗を分けたバントの守りのわずかな差。米沢監督は試合後、こう振り返った。「我慢して、我慢して何とか。ちょっとだけうちに運があったのかな」
一方、敗れた馬淵監督は「(攻撃は)バントが大事。(守りは)先頭打者の四球はだめ。野球が変わったんよ」。飛ばないバットがもたらす「1点の重み」を語った。(中村英一郎)