Smiley face
写真・図版
ストリート・メディカルの取り組みについて離す武部貴則さん=2025年4月11日、東京科学大、岡崎明子撮影

 ヒトのiPS細胞からミニ肝臓をつくることに成功し、史上最年少の31歳で横浜市立大と東京医科歯科大(現東京科学大)の教授となった武部貴則さん(38)。再生医療のフロントランナーである彼が、同じ熱量で取り組んでいるのが「ストリート・メディカル」という新しい医療の枠組みを作ることだ。研究者としては、再生医療だけに集中した方が効率的なはず。でも武部さんにとっては、そうでもないという。

 ――そもそも「ストリート・メディカル」とは?

 「ストリート・ファッション」「ストリート・カルチャー」……。ストリートをつけると、すそ野が広がる感じがしませんか?

 医療というと、白衣を着た医師や病院しか提供できないと思いがちですが、そこに「ストリート」をつけると、生活のあらゆる場に医療が組み込まれているイメージになります。「くらしの中に医療がしみ出す」といった概念です。

 ――わかったような、わからないような……。具体的には?

 男性のメタボリックシンドロームの基準値である腹囲85センチを超えると色が変わる「アラートパンツ」の商品化や、立ち位置によって絵の見え方が変わる「上りたくなる階段」を駅に設置するなど、「××したら健康になるかも」という仮説の実証を繰り返しています。

 いま一番力を入れているのは、「住むだけで健康になる街づくり」です。たとえば美しい歩道に300メートルごとにベンチを置くだけで、みんな歩くんですよ。ちょっと一休みできるような仕掛けが大事なんです。

 昨年度からは愛知県蒲郡市と一緒に、住む人の幸福度を高めながら健康になれる街づくりの実証実験を進めています。

 ――なぜ、こうした取り組みを?

 寿命が延びて、多くの人が慢性疾患とともに生きるようになったのに、「病気になったら治療をする」という医療の枠組み自体はなぜこの2千年間、変わっていないのか。そのことへの疑問が出発点です。

「生きられる確率は10%」からの生還

 ――何かきっかけがあったのでしょうか。

 医学部生のときに、広告会社が行うコンペに「広告医学」という概念を提案して入賞しました。いくら「健康が大事」と言われても、運動や体にいい食生活を続けるのは難しい。いつの間にか健康になっているという枠組みをつくるためには、医療とデザインを結びつけたらどうかと考えたんです。

 実は僕が小学3年生のとき、当時39歳だった父が脳出血で倒れました。最高血圧が200近くあったのに、医者嫌いでちゃんと降圧剤を飲んでいなかった。

 母には当初、「お父さん、風邪をこじらせちゃったみたい」と説明されていたのですが、半年後に「生きられる確率は10%」と告知されました。幸い父は奇跡的に回復したのですが、後に、ふだんの生活の中でもっと医療が介入できていたら……と考えました。

 あと、僕のちょっとひねくれた性格もあると思います。

 ――というと。

 医学部には「この部活に入っ…

共有