藤原帰一・順天堂大学特任教授
ロシアによるウクライナ全面侵攻に停戦をもたらそうとしているトランプ米大統領。平和を追求しているとされるその動きに、不安や反発の声があがるのはなぜでしょう。国際政治学者の藤原帰一さんは、米国が「プレデター(捕食者)の帝国」になりつつあると警鐘を鳴らします。どういうことでしょう。
プーチン氏の考えへの追従が招く不安
――「和平」を目指しているはずのトランプ米大統領の動きが、世界中の少なくない人々に不安や反発を抱かせています。
「当然です。トランプ氏が今進めているのは和平ではなく、プーチン氏の考え方への全面的な追従です」
――追従ですか。
「少数意見で驚かれるでしょうが、それ以外に評価のしようがありません。交渉に臨んでいるトランプ氏の判断のうち、現状でカギになるのは次の二つだろうと私は見ており、それらはいずれもプーチン氏の判断と同じだからです」
「①ロシアが武力でウクライナから奪った支配地域をロシアの主権下にあるものと認める②ウクライナ住民への大規模虐殺や人権侵害に関心を持たない――です。どちらも国際政治の原則を踏みにじる判断です」
――国際政治の原則とは何を指すのでしょう。
「戦争に関する国際政治の最低限の原則は『主権国家の独立は保全される』、つまり、侵略戦争の禁止です。加えてジュネーブ4条約(1949年)が、たとえ戦争中でも民間人や民間施設への攻撃は禁じるとの原則を定めています」
「それは悲惨な第1次世界大戦と第2次世界大戦の体験を経て人類がようやく手に入れた原則であり、いろいろと限界はありながらも制度化していました」
――トランプ氏の二つの判断は、彼の持つどのような国際秩序観を映し出しているものでしょうか。
大国が支配する時代への逆戻り
「大国が小国を力で支配する…