科学技術の発展がもたらす未来が、ユートピアではなくディストピアだとしたら――。不確実で先の見えない混沌とした社会で、巫女に扮した美術家・市原えつこさんはこう呼びかける。最悪な未来を生き抜くために、ともに「処方箋」を作ろう、と。
放射線への注意を促す標識、または魔法円を思わせる図形の中で、茶色く朽ちた人型ロボット「Pepper」が謎の言語の民謡を歌っている。壁面のモニターには、国家権力と一体化した「ヤギ教団」が、国民にキメラ実験の被験体となるよう呼びかける、キッチュなプロパガンダ映像が繰り返し流れる。食糧難にあえぐこの国で人々が主に口にするのは、配給制の干し草。壁に貼られた広告が、「疲労回復には寄生虫ナポリタン」と声高に喧伝(けんでん)している――。
東京・渋谷のアートスペース「シビック・クリエイティブ・ベース東京(CCBT)」の採択企画として、3月に個展「ディストピア・ランド」を開いた。災厄や劣悪な状況に直面した時、人類はどのように生き延びることができるのか。全体主義が社会を覆い、バイオテクノロジーが極端に発展したディストピアの「市民生活」をインスタレーションで提示し、そこで生き抜く方法を市民や研究者と一緒に考えた。
小規模な展示にもかかわらず…