「ミスタープロ野球」と呼ばれた長嶋茂雄さんが、6月3日に89歳で亡くなって1カ月。朝日俳壇・朝日歌壇には追悼句・追悼歌が続々と寄せられている。その数は400作品を超えた。著名人が死去した際に寄せられる作品としては、突出して多い。どの作品にも、戦後最大のヒーローへの愛情と哀惜の念が満ちている。
〈長嶋逝き夢は夏空かけ廻(めぐ)る 八王子市・額田浩文〉。俳聖・松尾芭蕉が死の直前に詠んだ〈旅に病(やん)で夢は枯野(かれの)をかけ廻る〉を踏まえた句だ。〈ナイターは毎晩ながらさりながら 朝倉市・深町明〉。こちらは、小林一茶が幼い愛娘(まなむすめ)を亡くしたときの慟哭(どうこく)の一句〈露の世は露の世ながらさりながら〉を踏まえている。
悲しみと寂しさをたたえた作品の数々。〈この人はこの人だけはねと巨人嫌いの母の深き哀悼 東京都文京区・遠藤玲奈〉〈長嶋が来たぞと空の父祖父ら喜びおろうこっちは寂しい 厚木市・前田千晶〉〈夏の空青春記憶3が逝く 神奈川県箱根町・渡邉英一郎〉〈六月や3の形の白き雲 村上市・鈴木正芳〉〈唐突に変わってしまう長嶋のいる世界からいない世界へ 和泉市・星田美紀〉〈長嶋逝くつひに昭和の終はる夏 熊本市・柳田孝裕〉
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「長嶋茂雄」の名が広く知られるようになったのは、東京六大学の立教大学で神宮球場を沸かせた時代。〈米寿です友と通った神宮のサード長嶋今も鮮明 埼玉県松伏町・森久子〉
1958年、プロ野球の巨人…