グリ下に設けられた万能塀=2025年3月19日午後3時26分、大阪市中央区、西晃奈撮影

 居場所のない若者が集まる大阪・ミナミのグリコ看板下のエリア「グリ下」に、大阪市が建設する若者らの座り込みを防ぐ塀が26日、完成した。市は来月開幕の大阪・関西万博に向けた「環境改善」とするが、支援団体は「『自分たちは排除される対象だ』と若者が感じてしまう」と批判する。

 「グリ下」は、グリコ看板付近の戎橋の下を流れる道頓堀川沿いの遊歩道の周辺を指す。東京・歌舞伎町の「トー横」(新宿東宝ビル横)と同様に、居場所のない若者が集い、犯罪に巻き込まれるケースが後を絶たない。市が塀(高さ2メートル、幅18メートル)を設置したのは、若者らが座り込む戎橋の下のスペースで、3月中旬に着工していた。万博後は塀は取り除き、三角形のパネルを設けて座れないようにするという。

 大阪市の横山英幸市長は塀の設置理由について今年2月の定例会見で、万博開催で国内外の多くの人がミナミを訪れる見込みであることを挙げ、「気持ちよくミナミの街を観光して頂けるように環境改善の取り組みを強化したい」とした。同時に、塀の設置には、若者が集まるシンボル的な場所を若者が犯罪に巻き込まれるたまり場にしないようにする狙いもあると説明。宿泊場所5室の確保など若者への市の支援は強化していると強調した。

集まる子どもはどうなる? 支援団体「闇に潜る恐れ」

 一方、グリ下で若者支援を続ける認定NPO法人D×Pの今井紀明理事長は、「塀の設置で戎橋の下に居にくくなった若者が、人の目が届かない闇に潜る恐れがある」と話す。今井さんによれば、いじめや家庭内暴力といった問題を抱える子どもが人とのつながりを求めて「グリ下」に来るケースが多く、小学生も少なくない。

 D×Pが、「グリ下」の近くで運営する支援拠点「ユースセンター」を訪れた若者200人に市と共同で実施したアンケートでは、46%が「育った家庭・施設を居場所だと感じない」と回答。直近1カ月で主にどこに寝泊まりしたかを尋ねた質問では、友人や交際相手の家、ホテル、仕事先などと答えた若者が24・5%で、およそ4人に1人は住まいが不安定だった。希望するサポートを複数回答で聞くと、「泊まることができる」が最多(53・5%)だった。

 周りの大人や社会に伝えたいことを尋ねた自由記述欄にはこんな記載が並んだ。

 「さびしいし、しんどい」

 「お家に帰せばいいと思わないでー!!」

 「なんでもすぐきめつけないでほしい。話をきいてほしい」

 「グリ下の子の居場所をけさないであげてほしい」

 今井さんは「塀を建てるのであれば、行政は若者へのアウトリーチを強化し、『あなたをケアしたい』というメッセージをもっと出さないといけない」と話す。

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