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100年をたどる旅 沖縄編

「100年をたどる旅~未来のための近現代史」沖縄編④

 自衛隊が防衛力を強化する「南西シフト」の方針は、民主党政権下の2010年、防衛大綱に明記された。当時防衛相だった北沢俊美氏は23年の民放のインタビューで、背景について「北朝鮮の脅威が少し増してきたこと、それから尖閣諸島問題。そうしたものを合わせてちょうどターニングポイントだった」と語った。

 その南西シフトの最前線・与那国島。23~24年に有事の住民避難の調査で島を歩いた明治学院大の石原俊教授(歴史社会学)は「片や『戦う覚悟』を叫び、片や中国の脅威を否定して『平和』ばかり強調する。本土から両極端な思想が流入してあふれ、生活に根差した『あわい』の声を小さくさせている」と感じる。

 「自分たちの町をよくしていくための議論が失われてしまっている」と指摘するのは、元自民党町議で現在は畜産業を営む小嶺博泉(ひろもと)さん(54)だ。町議会が町の振興のためとして自衛隊誘致を決議した08年、民意が反映されていない、とひとり反対した。

 「僕は自衛隊に反対しているわけではない」と明言する小嶺さんが疑問を呈したのは、自衛隊という外部に頼ったまちづくりだった。

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沖縄県与那国町の元町議、小嶺博泉さん。急速に進む防衛力強化に疑問の声を上げ始めてから、自身のもとへやって来る人が増えた=2025年4月23日、与那国町、棚橋咲月撮影

 前段があった。石垣市と合併しないことを決めた町の議会は05年に「自立ビジョン」を全会一致で採択した。小嶺さんは議会代表として深夜まで仲間と居酒屋で議論し、「辺境の島から、アジアとの交流拠点となって持続的に発展する交流の島に」と将来像を描いた。

 だが町のビジョンに基づく特区申請は国に2度却下される。自衛隊誘致の話はその頃出てきた。

 16年に沿岸監視隊が配備されると、24年には防衛省の当初の説明にはない電子戦部隊が配備。さらにミサイル部隊配備も予定されている。急速に進む防衛力強化に、駐屯地開設に賛成票を投じた保守派からも戸惑いの声があがった。防衛省は「丁寧に説明する」と繰り返すばかりだった。

 今や1700人近い人口の2割が自衛隊員とその家族にあたる。駐屯地開設で町には駐屯地の賃貸料や防衛省の補助金が入る。町もそれをあてにし、地域振興は基地政策と結びつく。上からいや応なく進む防衛政策を前に、地域による地域のための議論が自分たちの手を離れていくような喪失感を、小嶺さんは抱いている。

「国境を守るべきじゃないか」 元自民町議に迫った青年

 「あなたに話があるんです」

 数年前、小嶺さんは突然見知らぬ青年に声をかけられた。牛舎横の事務所でのことだ。

 ネットで記事を目にしたのか…

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