町工場の技術が宇宙へ――。まるで小説やドラマのような物語を現実にした企業がある。
今年1月、月面着陸を果たした宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月探査機「SLIM(スリム)」。そこで採用されたのは、神奈川県小田原市の鋳造会社「コイワイ」の技術だった。
1973年に自動車業界でエンジニアとして働いていた小岩井守さんが「脱サラ」して、秦野市で立ち上げた小岩井鋳造所が前身だ。
顧客から1個でも注文があれば応じる町工場。「人を喜ばせることやチャレンジすることが好きな人だった。もっとお客さんに近いところで仕事がしたくて起業したのでは」と守さんの孫でコイワイ企画室の小岩井もれあさん(40)。
挑戦をいとわないのは創業時からのスタイル。現在のキャッチフレーズは「型にはまらない鋳物屋」だ。
自動車業界の発展にともなって、90年代にかけて仕事の依頼が急増していた。一方、鋳造に欠かせない、木型をつくる熟練した職人は高齢化し、減っていた。「このままではお客さまの求めるスピードやクオリティーに対応できない」という危機感があった。
情報誌を見た社長は「これだ!」
そこで鋳造の工程にデジタル…