政治学者の吉田徹・同志社大教授

 捉えがたい「中道」政治。欧州では昨今、さらに雲をつかむような「極中道」という概念が飛び交っている。穏健な立ち位置のはずの中道がなぜ「極」という言葉と結びつくのか。世界的に政治の中道化が進んでいる、と見る政治学者の吉田徹・同志社大教授に、その背景と功罪を読み解いてもらった。

「左右の対立を乗り超える」と自任

 ――立憲民主党の党首に野田佳彦氏が就き、先の衆院選で国民民主党が伸長したことで、日本でも「中道」があらためて注目されています。世界的に政治の中道化が進んでいる、と論じていますが、そもそも中道政治とは何ですか?

 「中道という概念は政治学でも明確な定義づけが難しく、今も昔も捉えがたい政治的志向です。大まかに言えば、従来の『左対右』あるいは『リベラル対保守』のイデオロギーや既存政党の双方から距離を取った政治スタンスです。ただ、中道を自任する勢力は、単に中間点にいるだけでなく左右の対立を乗り越え、現実的で実践的な政策実行能力を重視すると自己規定し、自らに積極的な意義を付与してきました」

 「例えばフランスのマクロン大統領は、新自由主義者のように思われていますが、労働市場の自由化を進める一方で、人的資本投資を重視する柔軟な統治を試みています」

 「05~21年まで政権を担ったドイツのメルケル元首相も、中道右派のキリスト教民主同盟の出身ながら、同性婚合法化や女性の活躍促進などリベラルな社会政策を進めました。共通するのは、不均一な中道勢力を何とかまとめ上げるために、イデオロギーよりも個別の政策課題ごとに対処しようとする姿勢です」

 「完全小選挙区制で二大政党制が根強い英国でも、中道化と呼べる状況が進んでいます。14年ぶりの労働党政権となったスターマー内閣は、NATO(北大西洋条約機構)離脱や高所得者の最高賃金制限といったラジカルな政策を封印し、インフレ抑止や非正規移民対策、国民保険制度改革など、前保守党政権の政策を引き継いでいる面があります」

警戒込めた「極中道」という蔑称

 ――欧州では「極(きょく)…

共有
Exit mobile version