内戦下のミャンマーには、二つの「世界」が併存しているかのようだ。2021年のクーデターで全権を握った国軍が支配する「世界」、そして国軍と戦う武装勢力が掌握する「世界」だ。国軍は7月31日、統治の根拠としてきた「非常事態宣言」を解除し、年末の総選挙へ突き進む。対話を導ける仲介者は見当たらず、双方の世界に橋が架かる日は遠い。
6月下旬、首都ネピドーで国軍が開いた「和平フォーラム」を取材した。国軍最高幹部に、独特な民族衣装を身にまとった少数民族や政党の関係者、中国やインドの外交団など約260人が集まった。
壇上のミンアウンフライン国軍最高司令官は、少し笑みを浮かべて語り始めた。「我々は武装勢力に対話や政党政治による解決を促す。和平フォーラムを通じ、対話はいつでも歓迎だと繰り返したい」
フォーラムは3日間にわたって開かれ、参加者は「和平に必要なこと」「ミャンマーに適した民主主義」などをテーマに意見を交わした。ただ、ここで聞かれた「和平」「対話」「民主主義」といった言葉が、私には空虚に感じられた。参加者は、国軍寄りとされる政党や少数民族の代表者に限られ、国軍と戦火を交える武装勢力側の関係者は一人もいなかったためだ。
フォーラムで、ある政党の代表者が「現状を変えるには総選挙が必要だ」と言うと、会場は拍手に包まれた。すると、今度はあたかも現在の国軍統治を維持するための決起集会を見ているような感覚にとらわれた。
国軍は21年2月、クーデターで権力を掌握した。前年の総選挙では民主化指導者アウンサンスーチー氏(80)率いる国民民主連盟(NLD)が勝利し、国軍系政党は大敗。その後国軍が「選挙不正」を主張し、クーデターが起きた。スーチー氏は国軍に拘束され、事実上の終身刑を下されている。
閉ざされた民主化の道、奪われた自由
ミャンマーは、11年に民政移管した後、民主化の道を歩んでいた。経済は開放され、言論の自由もあった。民主的な10年を過ごした市民はクーデターに反発し、一部は武装化。いくつかの少数民族武装勢力も国軍への抵抗を強めた。英シンクタンク・国際戦略研究所は、この4年半で約3万2千件の武力衝突が全国で起きたと推計する。
国軍は、総選挙のやり直しを主張しながら、内戦の悪化を理由に実施を先延ばしにしてきた。ところが今年、「自由で公正な総選挙」を12月から来年1月にかけて行うと明言した。
しかし、泥沼の内戦下で本当…