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人気の八木節には多くの中学生が参加して踊った=2024年9月15日午後0時52分、岩手県山田町、東野真和撮影
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 岩手県無形民俗文化財に今春指定された山田町の秋祭りが14~16日にあった。今年は祭りを盛り上げ、地域のつながりを取り戻そうと、初めて町内の中学生が全員で参加した。

 秋祭りは漁師たちによる海の安全と大漁を祈願する祭りが起源とされる。14日の山田八幡宮の宵宮祭から始まり、15日は山田八幡宮、16日は大杉神社から出発した神輿(みこし)が町内を練り歩いた。地区の郷土芸能計8団体が演舞しながら後に続いた。市街地のお祭り広場では、歌謡ショーや他地域の郷土芸能の披露などが繰り広げられた。

 16日朝には、大杉神社の神輿が海岸から海に入る「潮垢離(しおごり)」や、神輿を船に載せて岬にある神社まで行く「海上渡御(かいじょうとぎょ)」があった。旗を持って海に入った人たちの中に、今年は新たに十数人の中学生が交じっていた。

 2011年の東日本大震災の津波で大杉神社や神輿が被災したが、祭りは中断しなかった。神輿は14年に支援金などで修理されて潮垢離も復活した。ただ、被災し、危険区域になった民家は、高台や町外に移転。地域のコミュニティーが弱まり、郷土芸能の担い手もばらばらになり、足りなくなった。

 学校も統廃合され、町内は山田中学校1校だけになった。今年、生徒会役員は「何か地域に貢献できないか」と話し合い、祭りへの参加を全生徒に提案して決まった。

 それまでも全校生徒280人のうち、約100人は地域の芸能に参加していたが、他は祭りに行ったことがある生徒さえ少なかった。

 神社の宮司や郷土芸能団体の代表らから歴史や祭りの意味などを学ぶと、新たに110人が郷土芸能をやってみたいと望んだ。各団体に頼んで特訓を受け、当日は演舞やお囃子(はやし)をした。1日だけ参加するつもりが、楽しくなって3日間参加した生徒もいた。それ以外の生徒は、清掃活動やお祭り広場で吹奏楽の演奏をした。

 八木節に参加した2年生の佐藤真士さん(13)は「踊りを覚えたので、来年も参加したい」と元気に話す。

 3年生の湊亜門生徒会長(14)は、1歳の誕生日に津波で自宅を流された経験がある。この日は、神輿の旗を持った。「楽しかった。中学生が参加すると家族も来て祭りが盛り上がるし、地域や人のつながりができる。この取り組みがなくても自然に生徒が参加するようになれば」と願っている。(東野真和)

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