漢字一字で、その年の世相を切り取る「今年の漢字」が12日、京都・清水寺で発表される。「清水の舞台」を背景に、大筆で巨大和紙に揮毫(きごう)する貫主(かんす)の後ろ姿は、おなじみだ。発表の舞台裏から、とっておきの平和論まで。1995年の第1回から筆をふるい続けて30回目となる、森清範(せいはん)貫主(84)が語った。

2023年に「税」と揮毫した森清範貫主=京都市東山区、新井義顕撮影

 ――いよいよ、30回目の発表を迎えます。

 よく30年も続いてきましたなあ。始めたころには想像できひんかったことです。振り返りますと、なるほどなあと思える字ばかりでした。

 ――特に印象に残っている字はありますか。

 まず、最初の年の「震」ですね。阪神・淡路大震災があって、オウム真理教による地下鉄サリン事件もありました。そしてやはり、東日本大震災の時の「絆」。普通は、親子や家族の絆など、ごく近しい人との結びつきを言いますが、この年の絆はもっと広い意味。みんなで助け合おう、支え合おうと、日本中が一つになりました。

「今年の漢字」が始まった1995年、「震」と揮毫する森清範貫主=京都市東山区
東日本大震災が起きた2011年、「絆」と揮毫する森清範貫主=2011年12月12日、京都市東山区

 ――予想が当たったことはありますか。

 「虎」(2003年)ですな。18年ぶりの阪神タイガースのリーグ優勝。子どものころからのファンでしてね。実は、昨年も「虎」だと予想していたのですが、関西だけの盛り上がりで、あきませんでした。

 ――「今年の漢字」は、発表当日まで知らされない、とか。

 発表の少し前に、漢検さん(日本漢字能力検定協会のこと)の事務封筒で、それはそれは厳重に、何重にも白い紙で包まれて寺に届きます。でも、開封せず、執事長に預かっておいてもらうんですわ。

「今年の漢字」が30年目を迎え、思いを語る清水寺の森清範貫主=2024年12月2日午前10時21分、京都市東山区、新井義顕撮影

 ――その心は。

 この季節、講演会や座談会に行くと、「今年の漢字」は何ですかとよう聞かれるんです。

 でも、私が書いて発表ということになっていますから、誰にも言えません。知っているのに「知りません」とは言いにくい。でも、「誰にも言うな」と言われると、やはり人間ですから、言うてみたいなという気になりますでしょ。

 ですから当日の午前11時、発表の3時間前に漢検の理事長さんがお越しになった際に開封して、ああ、今年はそうなんやと。大きな紙に大きな筆で書く、実際の練習はできませんから、それから2時間、イメージトレーニングですね。テレビで中継されていますから、失敗は許されない。やはり、緊張いたします。

「今年の漢字」が30年目を迎え、思いを語る清水寺の森清範貫主=2024年12月2日午前10時13分、京都市東山区、新井義顕撮影

 ――反響はありますか。

 書いた直後から、寺務所に抗議の電話がかかってくることもあります。「あの字は、はねてないのにはねてる」とか、「点がひとつ足りひん」とか。

 「戦」という字の最後に点があるでしょう。筆でシュッとひっぱったら、点と線がひっついたことがありました。「点がひとつ足りひん」と、どえらい抗議をいただきました。寺の学芸員の先生が「異体字には点のない字もある」とおっしゃって下さって。面倒を見ていただいております。

ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年、「戦」と揮毫する森清範貫主=2022年12月12日、京都市東山区

 ――今年はどんな漢字が選ばれるでしょうか。

 みなさんに必ず聞かれますからね。予想は、しております。今年は「羊」に「羽」。飛翔(ひしょう)の「翔」でしょう。

 ――大谷翔平ですか。

 みなさん、そう思わはるでしょ。でも違うんです。阪神の森下翔太の翔です。これからどんどん活躍してくれる選手やと思うております。

2023年に「税」と揮毫した森清範貫主=2023年12月12日、京都市東山区

 ――親しみやすい説法で知られた、大西良慶(りょうけい)和上も書画の達人でした。

 師匠は厳しい方でした。10…

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