トランプ米政権の高関税を受けて行き場を失った「メイド・イン・チャイナ」の製品が、自国に流れ込んで市場が破壊される――。そんな懸念がアジアで高まっている。越境EC(国境をまたいだネット通販)サイトの普及も、事業者の不満に拍車をかける。東南アジア諸国と中国との関係構築において不安要素になる可能性もある。
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タイの首都バンコク。チャオプラヤ川沿いのチャイナタウン近くに位置するサムペン市場には、繊維などの卸売業者や、それらが経営する小売店が立ち並ぶ。布地や衣料品、雑貨が所狭しと並んだ店舗は、地元住民や観光客でにぎわっていた。
ただ、商店主の表情はさえない。婦人服縫製業者などに布地を卸すワニット・クリスナクップさん(71)は「この10年で、もうけは大幅に減った」。タイの市場に、中国製の安価な既製服が流入しているためだという。
ワニットさんの店で扱う布地も、多くが中国製だ。それをタイの縫製業者に売ってつくられた服は、小売店で1着400バーツ(約1760円)ほどする。だが、中国製の既製服は1着100~200バーツで、「価格破壊が起きている。競争にならない」と嘆く。
タイ市場における中国企業と地元勢の競争環境は、不平等だ――。そんな不満が、中小事業者に広がっている。多くの商店主は中国製の「安さ」の理由について、中国の製造事業者が政府から補助金を受けているからだ、との認識をもっていた。
タイの事業者を悩ませるもう一つの要因が、中国製品が国内に氾濫(はんらん)する経路となっている、越境EC事業者の存在だ。
タイの中小事業者に広がる、中国製品への不満。記事後半では、中国の越境EC事業者への対策に乗り出した東南アジア各国の動きを紹介します。
地元の人たちに普及している…