(7日、第107回全国高校野球選手権大会1回戦 津田学園5―4叡明=延長11回タイブレーク)
津田学園の十二回の守り。1死一、二塁の危機を内野陣が併殺で切り抜けると、犬飼悠之介捕手(3年)は「よっしゃ」とこぶしを振り上げた。
続く攻撃で、敵失でサヨナラ勝ち。延長もタイブレークも、三重大会では経験がなかったが、「十一回表に1点リードされても、流れはつかんでいた。全く負ける気がしなかった」と振り返った。
犬飼捕手が4歳上の兄・慎之介さん(22)=神奈川大学=と野球を始めたのは、幼稚園の年長の時。慎之介さんは津田学園の主将で二塁手だったが、2021年の三重大会決勝で三重に5―6で敗れた。
「兄貴の悔しさを晴らしたい」と、津田学園に進み、昨秋までは兄と同じ二塁手。ところが、佐川竜朗監督から「扇の要には、守備全体を見渡せる犬飼の野球観が必要」と言われ、年明けに捕手への転向を決めた。
捕手は全く経験がなかったが、エースの桑山晄太朗投手(3年)の球を受け続け、変化球の軌道を体で覚えた。やっとミスなく捕球できるようになったのは、三重大会の直前。「捕手は、投手を勝たせるために存在する」と、試合では打者の癖を伝え、荒れた球は体で止めてきた。
この試合、甲子園の緊張からか、桑山投手はいつもほどの球威はなく、速球は140キロ前後。五回に低めの球を狙われて長短打を浴び、同点にされると、「球の高低で勝負しよう」と桑山投手に助言。打たせて取る配球に変えて十回まで相手を無得点に抑えた。
この日は、「兄の悔しさを背負った犬飼が一番勝ちたいはずだ」と話していた佐川監督の47歳の誕生日。苦しんだが、大きな1勝を贈ることができた。桑山投手を「背番号1が最も似合うやつ」とたたえ、「今は捕手が楽しくてたまらない」とも。
慎之介さんが試合前に「おれたちを超えろよ。アルプス席で見ている」とLINEのメッセージをくれた。「超えたぞ。でも、まだやるで」と返すつもりだ。