【長野】狂気や絶望、愛と憎悪。破滅的な私生活を赤裸々に描く文豪の父に、娘は何を思い、何に気づくのか。26日に香川県で開幕する全国高校総合文化祭の演劇部門に、松本美須々ケ丘高校が出場する。「文化部のインターハイ」とも呼ばれる晴れ舞台だ。
演目のタイトルは「愛を語らない」。大正、昭和時代の文豪の娘で小説家でもある主人公が、父への葛藤に悩みながらも成長していく物語だ。10人の役者が入れ代わり立ち代わり、ときにはシリアスに、ときにはコミカルにテンポ良く舞台を進めていく。
3年生で部長の吉沢美杜さん(17)は「それぞれのキャラクターを、色濃く落とし込めているのが持ち味」。激戦の関東ブロックを突破し、全国で約2千の加盟校の中から出場12校という総文祭の狭き門をくぐり抜けた。
演劇部の練習は週に5日。放課後は午後4時過ぎから7時まで、土曜は丸1日にも及ぶ。準備運動の体幹トレーニングや大音量の発声練習は、運動部に負けず劣らずの迫力だ。
この演目には、昨夏から取り組んできた。コロナ禍で先輩たちが観客の前では演じられなかった作品で、脚本を読んだ部員たちから、ぜひ再演したいと声が上がったという。
実体験のない大人の世界を演じるのは難しい。同じ演目を長くやっていると、新鮮さが失われてマンネリも生まれる。オリジナルの脚本や演出を担当してきた郷原玲教諭が今春、異動になるという危機もあった。
それでも顧問の松崎晃教諭は「不安の中で自分たちで考え、工夫していく力がついた」。生徒の成長ぶりを「化けた」と、うれしそうに表現した。
主人公を演じる3年生の荻沢杏さん(17)は「キャストだけでなく、裏方も一緒に全員で作り上げた集大成。次の世代にも、何かをつなげていけたら」。