大統領令を連発するなど、矢継ぎ早の動きが目立つトランプ第2期政権。既存の制度に大なたを振るう様子は「王」や「独裁者」かのようだ。自由で民主的な政治を掲げてきた米国で、「専制」を目指す者があらわれた現実をどう見るか。中・東欧史の視点から「王のいる共和政」というキーワードを提示した歴史学者で早稲田大教授の中澤達哉さんに寄稿してもらった。
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「共和政の帝国」という言葉をご存知(ぞんじ)だろうか。ロシア史研究者・池田嘉郎の造語である。ロシア帝国崩壊後にできあがったソ連や現在のロシア連邦を、共和政の帝国とみる大胆な歴史観だ。この見方では、強大な権力をもったレーニンやプーチンは「皇帝」の似姿として捉えられている。
しかし……、である。これまで私は、「共和政の帝国」論はロシアの共和政に限定される現象だと思い込んでいたのだが、どうも違うらしい。トランプ米大統領の2期目は、アメリカという共和政国家で公然と国王をめざす大統領が出現したようにみえるからだ。トランプは、就任以来、大統領令を通じて、通商・外交・移民等々、これまでの常識を超える強権を発動している。絶対君主と見紛(みまが)うほどである。
とはいえ、歴史学からみると…