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2021年、還暦野球の試合でマウンドに立つ高野浩さん=高野さん提供

 (10日、第107回全国高校野球選手権神奈川大会1回戦 津久井浜―津久井)

 初戦を10日に迎える津久井浜のチームを下支えしているのは、顧問を務める高野浩さん(64)。チームでは「神」「レジェンド」と呼ばれている。

 タンクトップから、日焼けした丸太のような腕がのぞく。1976年に創立された津久井浜の1期生として野球に打ち込んで以降、選手や指導者として半世紀近く高校野球と向き合ってきた。

 今も還暦野球のチーム「横須賀シニアクラブ」に所属し、投打の中心として活躍する。昨年の県大会で優勝し、最優秀選手に選ばれた。10月の全国大会に向けて、生徒に交じって筋トレに励んでいる。

 原点は、津久井浜の3年間だ。

 創立間もない津久井浜はグラウンドがなく、他校に足を運んで練習していた。「肩身は狭かったですね。いつも端っこで練習していました」

 そんな環境でも、部員たちは練習に明け暮れた。「同学年しかいなかったのがかえって良かったのかも。団結して甲子園を目指していた」

 毎日の練習が終わると、自宅で夕飯を済ませ、すぐに監督の家へ。午後10時まで庭に張ったネットに向けてティーバッティングをした。「今思うと監督もよく付き合ってくれたな」と笑う。

 最初の夏は、1年生だけのチームながら初戦をコールド勝ち。3年夏には16強に進出し、横浜と対戦した。

 後にプロ野球に進む愛甲猛投手から安打を放つなど活躍したが、試合は2―4で惜敗した。シャワールームでは選手全員が泣き崩れたという。それでも、「これ以上ないくらいバットを振り込んだという満足感はあった」と振り返る。

 大学卒業後は神奈川県立高の教員として、母校を含む4校で38年間、監督や部長として野球部を指導してきた。

 2012年秋には、県大会で部員13人の逗葉(現・逗子葉山)を8強に導いた。日本ハムなどで活躍した今関勝選手など、指導した球児は400人に上る。

 選手に練習メニューを決めてもらうなど、選手主体の指導方法も模索した。「目標に向けて全力を尽くして『俺たちやったぜ』という経験は、結果にかかわらず素晴らしかった」

 60歳で定年を迎え、再任用として母校に戻ってきた。

 「顧問が口出ししたら監督の迷惑になる」と裏方に徹し、グラウンドでの指導は三井高友監督(56)に任せている。

 自家用車で大きなブラシを引っ張ってグラウンドを整備し、選手の相談に乗る。三井監督は「選手にあれこれ言わなくても、高野さんを見ていると自然とやる気が出る」と語る。岸真優主将(3年)も「いくつになっても野球を楽しんでいる」と慕っている。

 高野さんが最近うれしかったことは、高校時代に敗れた横浜の選手を還暦野球で三振にうち取ったこと。「すぐに結果が出なくても、長い人生で必ず努力は形になる」。選手たちに、そう伝えたい。

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