東京裁判の法廷で、ヘッドホンをつけて陳述に聴き入る被告たち
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 第2次世界大戦後、日本の戦争責任が問われた極東国際軍事裁判(東京裁判)を取り上げた「Judgement at Tokyo」(東京での審判、邦訳未発売)が昨年、米国で出版されて話題となった。二つの戦争が進む今、戦争の裁き方をどう考えればいいのか。著者のゲーリー・バース米プリンストン大教授に聞いた。

ゲーリー・バース(Gary Bass)

 1969年生まれ。ハーバード大卒、同大院修了。エコノミスト誌記者などを経て、プリンストン大教授。専門は国際安全保障や人権問題。

 ――なぜ東京裁判を取り上げたのですか。

 「東アジアは現在の世界情勢の中心地です。台湾海峡で戦争が起き、米国や日本も巻き込まれるかもしれません。しかし、米国で多くの人が注意を払っているとは思えません。東アジアの現在に関心を払ってもらえれば、という狙いがありました。今日の東アジアを理解するのに、東京裁判を含めた戦後の歴史を知ることが不可欠です。日本に親近感と敬意を抱いており、その歴史を研究したいという思いもありました」

 ――確かに、第2次大戦に勝利した連合国がナチスドイツ高官などの戦争犯罪を裁いたニュルンベルク裁判と比べ、東京裁判は欧米ではあまり注目を集めてきませんでした。

 「ですが、東京裁判は国際的な出来事でした。日本の敗戦には11カ国が関与していました。法廷で起きたことをたどるだけでなく、東京裁判での各国の思惑や人間模様を通じ、自由で平和な日本の誕生や冷戦の開始、帝国の終焉(しゅうえん)、中国内戦を経ての中華人民共和国の建国といった戦後アジアの誕生を描くことができると考えました」

極東国際軍事裁判(東京裁判)

 第2次大戦後、「A級戦犯」とされた東条英機元首相ら28人が被告となり、「平和に対する罪」などに問われた裁判(1946~48年)。戦争に勝利した連合国側の11カ国から選ばれた判事が審理した。被告のうち、死亡や精神障害を理由に免訴された3人を除く25人が有罪となり、東条元首相ら7人が死刑、16人が終身禁錮刑、1人が禁錮20年、1人が禁錮7年の判決を受けた。日本政府は51年に調印したサンフランシスコ平和条約によって裁判を受諾。政府は現在、「国と国との関係において、この裁判について異議を述べる立場にはない」としている。

 ――昨年10月に出版されると、米ニューヨーク・タイムズや英エコノミスト誌など欧米の主要メディアに「23年の注目すべき著作」と評価されました。

 「人権と政治の関係に関心を…

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