日本との協力で2007年に開通した高速鉄道に乗り、台北から南西へ約35分。4月下旬、新緑の田園地帯を抜けると新竹に着いた。
「昔はこのあたり、サトウキビ畑だったよ」
地元のタクシー運転手が懐かしがる農村は、いまや世界中の視線が注がれる半導体製造工場の集積地となった。
高性能スマホや人工知能(AI)に欠かせない先端半導体の約9割が、台湾でつくられている。もしここで「有事」が起きたら――。
こうした経済安全保障の観点から、米国を中心に台湾や日本、欧州、インドも巻き込んで、半導体をめぐるサプライチェーン(供給網)の再編が進んでいる。
15~20階建てのマンションやオフィスビルの建設ラッシュが続く高速鉄道の新竹駅から、車で旧市街を過ぎると、「新竹サイエンスパーク」が見えてきた。巨大な箱形の工場群が連なっている。
半導体受託製造の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の本社を目指した。
TSMCはここ新竹や台南の工場で、自動車や家電用などの旧世代の「レガシー半導体」から、最新iPhoneやAI技術などに使われる先端半導体までをつくっている。
同社は、半導体チップの製造を、他社から委託を受けて請け負う「製造に特化した会社」だ。米半導体工業会によると、回路線幅が10ナノメートル(1ナノメートル=100万分の1ミリ)以下の先端半導体では92%にものぼる。回路線幅が狭くなるほど、半導体の性能が上がる。
もともと1990年まで、米国が世界の半導体製造の4割近くを占めた。特に、データ処理を担う中央演算処理装置(CPU)としてパソコンなどに搭載され、「頭脳」の役割を担うロジック半導体の分野では、インテルなどを有する米国の独壇場だった。日本もメモリー分野で世界トップだった。
しかし、半導体産業の投資額はあまりに高額となり、開発から商品化でつまずくと企業の存続が危うくなるほどリスクが高くなった。そこで開発・設計は半導体大手の米クアルコムやアップルなど工場を持たない「ファブレス企業」が担い、製造はTSMCなどに任せるサプライチェーンの「水平分業」体制ができたのだ。
TSMCは、半導体チップを製造する技術に集中して研究開発や巨額の投資を続けた。中国の上海や南京にも工場を建設し、中国国内の製造業に半導体チップを供給する体制も整えた。
だが、こうした経済合理性に基づく企業の経営判断が優先された時代は一変した。半導体をめぐる国際分業体制はいま、劇的に変わろうとしている。いったい何が起きているのだろうか。私は取材を続けた。
TSMCはいま、日米独で半導体工場の建設を進めています。台湾の専門家は断言します。「日本にとってチャンスです」。なぜなのか。記事後半でお伝えします。
「私たちは、日本や米国、ド…