6月はもう、吹奏楽部員にとって「コンクールの季節」にさしかかっている。
静けさのなか、振り上げられた指揮棒。白いブレザーを着た81人の視線が、そこに集中する。
胸のエンブレムにはユーカリの葉、そして創部を表す「1956」の文字。
兵庫高校吹奏楽部の定期演奏会は、コンクール前の大きな節目の舞台だ。
日本神話を描く「斐伊川に流るるクシナダ姫の涙」の篠笛のようなフルートの音色。コンクールの自由曲に選んだ「指輪物語」の情感豊かなコラール。音で会場の空気を次々に変えていく。
定番の曲の一つは、勇壮でさわやかなメロディーの行進曲「ユーカリスティア」。旧制神戸二中の時代から校庭に植えられ、学校の象徴となったユーカリにちなんで、卒業生が作った曲だ。神戸文化ホールの会場を、約1500人の拍手が包んだ。
連載 ユーカリの樹の下で
兵庫高校の挑戦を追うシリーズです。
母校に戻った1人の指揮者
兵庫高校の吹奏楽部には今年、いつもより少し多い32人が入部してきた。部長の坂本尚さん(3年)は「可能性に満ちている」と、うれしそうだ。
新入部員が増えたのは、偶然ではない。
兵庫高校は昨年、全国の高校生たちが情熱を注ぐ吹奏楽コンクールの県大会で金賞を得た。金賞は7校で、関西大会に進む6校の代表には届かなかった。
だが、部を勢いづかせる「復活」の希望に満ちた金賞だった。
大阪の大阪桐蔭や明浄学院、淀川工科、奈良の天理――。関西代表として日本中に名が知られる各校のように、兵庫高校にも全国でハーモニーを奏でた時代があった。
1956年の創部以来、熱のこもった指導で力をつけた。卒業生らは楽器を寄贈したり、吹奏楽団を結成して毎年の定期演奏会で現役の部員たちと合同演奏をしたり。物心の両面で支えた。
74年から全日本吹奏楽コン…