韓国・ソウルにある低層住宅や商店が並ぶ昔ながらの住宅街。車がすれ違うのも難しいほど細く急な坂道をのぼった先に、主愛共同体教会はあった。親が子を匿名で預け入れられる「ベビーボックス」に2009年から取り組む。
ベビーボックスは教会の横にひっそりと設置されていた。穏やかな表情を浮かべた女性と赤ちゃんの絵が描かれた扉の上部には「あなたがこの子の命を守りました」と書かれている。
預けに来る人のほとんどが母親。若年で未婚のことが多く、望まぬ妊娠や困窮などの事情を抱えているという。「出産直後で出血している女性もいました。まずは『大変でしたね。来てくれてありがとうございます』とお礼を言います」。これまで多くの女性と面談してきた教会のスタッフが説明してくれた。
親が赤ちゃんを置いていっても、子の安全が確認されれば、保護責任者遺棄罪に問われない。07年、教会の前に障害のある赤ちゃんが置き去りにされていたことをきっかけに、同教会牧師の李鍾洛(イジョンラク)さん(70)が国内で初めて取り組んだ。「未婚で子を産む女性への蔑視や、産んだ以上は母親が責任を持って育てるべきだという偏見は韓国も日本と同じく根強い。社会的立場の弱い女性や赤ちゃんが追い詰められている。だからこそ、命を守るために必要だと考えた」
参考にした一つが、熊本市の慈恵病院が取り組む「こうのとりのゆりかご」だった。先代の蓮田太二院長(故人)が07年、生まれた直後に殺害、遺棄される赤ちゃんをなくそうと日本で初めて設置した。
ゆりかごは、扉があき、赤ち…