A-stories 8がけ社会と大災害(3)
穏やかな有明海に面する熊本県北部の玉名市。人口6万3千人のこの街で2016年春、市土木課の木下義昭さん(48)は、新たな職務を前に焦りを強めていた。
その2年前、国は全ての橋やトンネルを5年に1回、点検するように自治体に義務づけた。9人が死亡した中央道笹子トンネル(山梨県大月市)の天井板崩落事故がきっかけだった。
木下さんが担当することになったのは、市内の橋のメンテナンス業務だった。
さっそく現状を確かめた。16年3月時点で、市道の橋は823もあった。だが、点検済みは17。全体のわずか2%にとどまっていた。
それだけではない。橋の名前や位置、構造といった基本情報を記した台帳がない。架設当時の設計図も廃棄されている。どこに、どんな橋があるのかすら、よくわからなかった。
連載「8がけ社会」
高齢化がさらに進む2040年。社会を支える働き手はますます必要になるのに、現役世代は今の8割になる「8がけ社会」がやってきます。そんな未来を先取りする能登半島での地震は、どんな課題や教訓を示しているのでしょうか。4月14日から配信する8本の記事では、8がけ社会と大災害に焦点をあて、災害への備えや復興のあり方を考えます。
国が求める点検のタイムリミットまで残り3年。「このままでは絶対に間に合わない」
絶望して立ち止まるわけにもいかない。まずは点検が進まない理由について、過去の担当者に聞き取り調査した。
「コンクリートは永久的な構…