Smiley face
写真・図版
岡田智之院長=2025年8月12日午後1時21分、鳥取県八頭町、清野貴幸撮影

 診療所の閉院が相次いだ鳥取県八頭(やず)町で7月、民間診療所「こおげ駅前クリニック」が新たにオープンした。中山間地域の医療の維持を目的とした県の補助金制度を活用した。院長は新潟市出身の岡田智之医師(37)。出身地から遠く離れた場所で地域医療に携わる決意や課題を聞いた。

 ――開業しようと思った理由は。

 いずれは地域のかかりつけ医になりたいと思っていました。鳥取県立中央病院(鳥取市)に勤務していた頃、八頭町在住の患者から「かかりつけ医がなくて困っている」と聞きました。その後、町内で診療所が立て続けに閉院し、請願が町議会に出されたとニュースで知り、自分の力が役に立てるのではないかと考えました。

 ――いつから地域医療に関心を。

 岡山県内であった研修医実習で初めて地域医療に触れました。医療機器がそろっているわけではないので、点滴をするにも患者宅の物を借りることがあります。医療者と患者さんの距離が近く、友達同士のように接していることに関心がわきました。

 ――医師を志したきっかけは。

 高校の時に病気で入院した地元の病院で、担当の男性医師から「大丈夫ですよ」と励まされて。不安だったのですが、その一言で霧が晴れました。自分も患者さんを勇気づけてあげられればと思いました。父が勤務医だったこともあり、もともと関心はありました。

 ――鳥取大医学部を卒業し、県内にとどまっている。

 鳥取に住んでみて、県民の人柄が良くて自分の肌に合っていると感じました。温かいというか優しいというか。卒業しても新潟には帰らずにやっていこうと思っていました。

 ――開業から(取材時点で)10日余り経った。

 高血圧、高コレステロールなど生活習慣病を抱えた患者さんが多いと感じます。薬だけを出すのではなく、生活習慣に注意するようしっかり話をしたいと思っています。住民からは「(診療所を)開いてくれて助かった」と言われ、励みになりました。

 ――今後、地域医療にどう携わるのか。

 生活習慣病をしっかり管理し、健康診断の受診も促して大きな病気の発病を防ぎたい。健康教室のようなイベントでの啓蒙(けいもう)活動にも機会があれば取り組むつもりです。

 大病院のようにすべての診療科がそろっているわけではないので、自分が幅広く診る必要があります。すぐに専門医に紹介すべきか、もしくは薬など軽度な対応で済むのか、そこを見極める能力を磨くことが課題の一つ。自分の専門外の診断については生成AI(人工知能)も補助的に活用し、専門医にお願いするタイミングを逃さないようにしたいと考えています。

 ちょっと困ったことでも気軽に相談ができるような、垣根が低い医院を目指したい。

      ◇

 診療所「こおげ駅前クリニック」はJR郡家(こおげ)駅にも近い町中心部にある。診療科は内科と胃腸内科。

 開院に当たり、県が2024年度に創設した中山間地域での医療人材確保対策事業を活用。建物や医療機器の取得費などに補助する制度で、最初の適用例となった。町からも同様の補助を受けた。町によると、22年12月以降、町内で二つの民間診療所が閉じ、かかりつけ医の確保を求める請願が住民から町議会に出され、採択されていた。

 岡田さんは鳥取大医学部を卒業し、鳥取赤十字病院(鳥取市)、鳥取県立中央病院(同)で勤務した。現在は住まいのある鳥取市から診療所に通っていて、将来的には八頭町に移り住むことも考えているという。

共有