参院選(20日投開票)で、外国人への規制を強めることを公約に掲げる政党が相次いでいる。こうした訴えに一部の有権者は共感し、日本に住む外国ルーツの人々らは不安を抱く。
「まずは日本人を豊かに」。12日、大阪市内でそう訴えた候補者に、堺市の女性会社員(38)は握手を求めた。外国人から嫌な思いをさせられた経験はない。ただ、夫と共働きでも生活が苦しい。今年、死産を経験し、経済的にもっと楽で、心身に余裕がある働き方を出来ていれば防げたのでは、との後悔も感じる。
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そんな中、海外の富裕層が日本の不動産を買っているとの情報に触れ、いつかは自宅マンションの賃料もあがり、生活がより苦しくなるのではないかと不安を感じた。外国人の不動産売買に規制をかけるべきだとの政党の訴えをSNSで聞き、「がんばっても報われないのは、外国人富裕層のせいだ」との思いが強まったという。
聴衆にいた地方公務員の男性(28)は自身に経済的な不安はないというが、治安の悪化を心配する。警察庁の統計などによれば、外国人による刑法犯は検挙人員も件数も2000年代半ばからは減少し、日本にいる外国人が急増したこの10年ほどもほぼ横ばいだ。こうした内容を記者から聞くと、男性は「今は良くても、抑止しないと手遅れになる」と話した。
日本全体では、外国人に否定的な思いを持つ人ばかりではない。早稲田大学の田辺俊介教授(社会学)らは2009年から4年に1度、外国人の増加に対する意識を全国調査。外国人の増加で「経済が活性化する」かとの質問に、21年度調査(回答者3082人)では46%が「そう思う」と回答し、「思わない」の16%を上回った。肯定的な回答は09年から増え続けていたという。
「ルール守っているのに」「働き手足りず困るのは日本人」
日本に暮らす外国人や外国ルーツの人たちは、不安や戸惑いを訴える。
西日本在住の20代の女子学生は、バングラデシュ出身の両親のもと、日本で生まれ育った。
参院選前、「日本人が納めた税金を、外国人がただで使っている」という政治家の切り抜き動画を目にした。「大半の外国人は、日本人と同じように納税しているのに」と反発を覚えた。
中学生の時、両親から日本国籍取得を相談され、一度は拒んだ。でも「日本人と同じように教育を受けて日本で暮らしてきた。これからも日本で働いて税金を納め、生きていくんだから」と言われ、納得した。夢はエンジニアになって日本の開発事業に携わること。でも、日本が「外国人」を排斥する方向に動いたら「心の居場所を失うのではと心配です」。
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東京都内の高齢者介護施設で働くインドネシア国籍の男性(30)は、「ルールを守って暮らしているのに、外国人だからと敵視されるのは納得できない」。
日本とインドネシアの政府が結んだ経済連携協定(EPA)の枠組みで来日。勤め先の従業員は2~3割が外国人だ。
男性は就労前、日本語や日本のルールなどを約1年かけて教わった。人手不足で、教育をする間もなく外国人を受け入れていることがトラブルにつながっているのだと男性は考えている。もし日本が実際に排斥に進めば「ブーメランになって日本に返ってくる」と男性は言う。「働き手が足りなくなって困るのは日本人ですよね」
外国人の人権問題などに取り組む団体からは、懸念の表明が相次ぐ。国際人権団体アムネスティ・インターナショナル日本は4日に都内で会見し、「すべての人の人権が守られる社会の実現」を訴えた。NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」など8団体も8日に「排外主義の扇動に反対する」とする緊急共同声明を出した。
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