「マッハコーヒー」
初めてその名前を聞いたのは、昨年9月、能登北部を襲った豪雨の2日後のことだ。
元日の能登半島地震に追い打ちをかけるように、豪雨でも大きな被害を受けた石川県輪島市の山あいのまちに、隣の能登町にあるコーヒー店「マッハコーヒー」からおにぎりの炊き出しが届くという。
こんなにすぐに、隣町を助けようという被災者がいるのか――。
思わず、ノートに「マッハコーヒー」と走り書きした。
後からノートを見返すまでもなく、その名前にはその後も何度も出くわした。
10月、能登町鵜川の仮設住宅団地で、住民たちが乗り合わせて買い物に行ける「カーシェアリング」の取り組みが始まった。町長の隣で記念写真におさまったのは、スポンサーとして車のリース代を支援したというマッハコーヒーの村上大(だい)さん(47)だった。
11月には、輪島市町野町で唯一のスーパーの復活オープンイベントで、村上さんがコーヒーを振る舞った。
各地に出向いてコーヒーをごちそうするだけでなく、コーヒー豆の売り上げの25%を復興支援のために能登町やボランティア団体に寄付しているという。
年が明けた1月、村上さんに話を聞こうと、能登町真脇のマッハコーヒーを訪ねた。
築50年近いという一戸建ての住宅兼店舗に、コーヒーの香りがただよう。村上さんが慣れた手つきでいれてくれたものだ。
村上さんの口から出てきたのは、意外な言葉だった。
「実は僕、コーヒーが飲めなかったんです」
コーヒーの香ばしいにおいや…