「亀の尾」の田植えを終えた阿部耕祐さん=5月27日、山形県庄内町

 「夏子の酒」という漫画がある。酒蔵の娘が、途絶えた幻のコメを復活させて日本一の酒を造ろうと奮闘する。1988年から91年までコミック誌に連載された。作中の幻のコメ「龍錦(たつにしき)」のモデルは、山形県発祥の「亀の尾」のことだった。

3本の稲が始まり

 1893(明治26)年、現在の同県庄内町の篤農家、阿部亀治(1868~1928)が神社参拝の折に、田んぼに水を引き込む水口で3本の稲穂を見つけた。水口の水は冷たい。しかもこの年は冷害。それでも穂は実っていた。

 亀治は、稲を譲り受け、その子孫を吟味して種もみを増やした。そして再び冷害に見舞われた4年後、「亀ノ尾」を送り出す。寒さに強く味も良い。評判を聞いて来る農民に、亀治は惜しげもなく種もみを与えた。栽培は東北や北陸だけでなく朝鮮半島にも及んだ。

 こんな話がある。知人が亀治…

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