医療費が高額になったときに、患者が負担する金額に上限を設ける高額療養費制度。見直しは見送られることになりましたが、医療統計や公衆衛生学が専門の伊藤ゆりさんは、今の制度でも医療費によって世帯が貧困に陥るとされる「破滅的医療支出」の目安を超える可能性があると指摘します。公的医療保険が守るべきものとは何か、話を聞きました。
すでに存在している健康格差
経済的、社会的な状況による健康格差はすでに存在します。がんになって働けなくなる人、治療費の負担から家計を切り詰めたり、治療を続けられなくなったりする人もいます。住んでいる地域の困窮度が高いほどがん患者の生存率も低くなります。現行の高額療養費制度があっても、です。
WHO(世界保健機関)は「破滅的医療支出」という考え方を示しています。可処分所得から家賃や食費、光熱費などの生活費を引いた金額を分母とし、支払った医療費が40%を超えると「世帯が貧困に陥る」とされています。私が試算したところ、当初の政府案通りに制度を変えた場合、1年間、毎月上限まで医療費を支払うと、全ての所得階層で40%を超えます。現行制度でも低所得の方では100%に近くなっており、むしろ自己負担額の引き下げを検討してもいいくらいです。長期的に高額な薬や治療を続けなければいけない慢性疾患の方が、引き上げによって制度の対象から外れれば、大きな負担増となります。
余裕がある人は民間保険で?
今回の政府の動きに対し、当…