(7日、第107回全国高校野球選手権福岡大会2回戦 八女農0-11柳川=五回コールド)
勝利を届けたい仲間のことはあえて考えず、無心で打席に立った。
3―0で迎えた四回裏1死一塁。柳川の池末吏輝(りき)選手(3年)は、左前へ勢いよくはじき返した。二回の打席では見逃し三振。今度は打線をつなぎ、一挙8得点の流れを作った。
「大空(そら)、ありがとう」
心の中で呼びかけた相手は山田大空さん。部でともにプレーした同学年の親友だ。
入部直後に意気投合。遠征先では夜遅くまで語り合い、練習でつらい時は励まし合った。
昨年5月、山田さんが体調を崩して入院。悪性リンパ腫と診断された。「すぐに戻ってくるから」という言葉を信じた。
しかし、秋に手術を受けていったん回復した後に再発。山田さんが一時帰宅した時には「早く戻ってこいよ」と励ましたが、元気がなさそうに見えた。
そして今年1月、山田さんは17歳の若さでこの世を去った。受け入れることができなかった。信じたくもなかった。
チームのムードメーカーで、野球が大好きで。甲子園への思いをいつも語ってくれた。思い出が次々とよみがえった。
「大空は自分たちが悲しんでいる姿を見たくないはず。『元気だせよ』とあきれているんじゃないか」。そんな気がした。
「一丸 大空とともに」。チームの合言葉になった。天国で一人にさせない、いつまでも部の仲間だからな。そんな前向きな思いが込められていた。
遊撃手だったが、山田さんが守っていた二塁手を監督から任された。慣れない守備に戸惑ったが、同じ背番号「4」で福岡大会に臨んだ。
この日の試合前、スタンドに山田さんのユニホームが掛けられた。大空に見守られながら勝利を挙げる。そんな決意だった。
五回コールドの快勝。チーム一丸で勝利をつかみとった。スタンドでは山田さんの両親も見守っていた。父・大輔さんは「みんな笑顔でプレーしていた。大空と野球をやっているんだろうなと思った」。
池末選手は誓った。「甲子園に大空を絶対に連れて行く」