公正取引委員会は26日、音楽・放送業界の契約やトラブルをめぐる初の実態調査の結果を発表した。俳優ら芸能人との契約は全て口頭だけの事務所が約3割あった。俳優らからは、事務所の移籍や独立を妨害され、芸名の使用を制限されたといった例も寄せられた。
公取委はこうした事例が独占禁止法に触れる恐れがあるとして、事業者団体を通じて事務所側に注意喚起した。
調査は、依頼した芸能事務所の3割に当たる810社から回答を得て、俳優、歌手、タレントら芸能人からも聞き取りをした。
回答した事務所のうち、契約が「全て口頭」は26%、「一部口頭」は16%。理由は「これまで問題が生じていない」が54%、「従前から口頭だから」が38%だった。公取委は、不透明な契約で芸能人に不利益を与えるなど、独禁法が禁じる優越的地位の乱用を招く可能性があると指摘。明確な内容の書面契約にすべきだとした。
芸能人が契約満了時に退所を申し出た場合でも、事務所が一方的に契約更新できる「期間延長請求権」を有していると回答した事務所が約4分の1あり、実際に行使したのは10%だった。請求権を行使して移籍や独立を断念させた場合は、優越的地位の乱用などの問題になるという。
「脅された」「悪評流された」事例も
移籍・独立を巡っては、芸能人側から「その後の芸能活動を一切行えなくなると脅された」「悪評を移籍予定先やマスコミに流された」といった例が寄せられた。事務所側でも、移籍してきた芸能人に関する圧力を受けた経験について、「ある」が1%、「一部ある」が3%だった。公取委は取引妨害などにあたる可能性を指摘した。
芸名やグループ名については、芸能人から「合理的な理由がなく改名させられた」「改名すると芸能活動に支障が出る」といった声があった。事務所側では、芸名の制限は「あり」が3%、グループ名の制限は「あり」が2%だった。公取委は取引拒絶などに当たりうるとした。
公取委は調査結果をもとに、未然防止のため、来年以降にガイドラインを打ち出す方針という。
回答は事務所の3割 ウェブで情報提供も
調査は今年4~11月、公取委が芸能事務所2628社を対象にアンケート形式で実施し、約3割の810社から得た回答を分析した。回答した事務所関係者を含め、芸能人29人、事務所37人、テレビ局など10人、レコード会社8人ら計95人からヒアリングも実施。アンケートとは別に、ウェブ上で芸能人や事務所関係者ら計901人からの匿名も含む情報提供を受けた。調査をもとに、独占禁止法上で問題となり得る行為を事例ごとにまとめた。
結果は各関係事業者に周知し、主要な事業者団体には注意喚起した。今後は関係省庁とも連携し、独禁法上の違反行為があれば対処していくという。