「妻から電話があって、怒られました」。辞任した前農林水産相が「コメは買ったことない」発言の弁明で口にした言葉を聞き、「またか」とあきれた人も少なくないのでは。妻に頭が上がらない、と暗に示せば親しみやすさにくるんだ低姿勢ぶりを演出できるという定式でもあるのか、政治家はよくこの言い訳を使う。
免罪符のごとく用いられる「妻に叱られた」だけでなく「誤解を招いたとしたら申し訳ない」といった政治の常套(じょうとう)句を読み解いてきた言語哲学者の藤川直也さんは、こうした「謝罪もどき」を聞いたらスルーしないで、と説く。
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「牛乳買い忘れた」と同レベル狙う?
「妻に怒られた」「叱られた」という釈明表現は、政治家によって繰り返されてきました。東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗元会長も2021年、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言し、批判されると「女房にさんざん怒られた」「娘にも孫娘にも叱られた」と釈明しています。妻や娘を使ったこうした言い回しは、言語哲学の観点から見て、二つの効果があります。
まず、本来無関係な家庭内の…