娘の気持ちは分かっていた。でも、学校に行ってくれないと仕事ができなかった。
シングルマザーの上田響さん(34)は、「行きたくない」と泣く長女ゆずはさん(9)の背中を押して小学校に連れて行き、その足で川崎市の会計事務所に出勤していた。3年前のことだ。
都内の小学校に入学したゆずはさんは、やり直しの宿題が終わらないうちに新しい宿題を出されて、台所の小さなカウンターで泣きながら鉛筆を握っていた。
2年生の春、担任の先生から告げられた。「正直、何も理解できていないです」
衝撃だった。仕事に子育て、家事と精いっぱい頑張ってきたつもりだったが、授業についていけずに苦しんでいる娘に寄り添えていなかった。
「私、何やってんだろう」
涙が止まらなくなった。
「このままだとダメになる」
長野県飯田市で生まれ育った上田さんにとって、東京は憧れの街だった。
地元で保育士をしていたときに結婚。翌年ゆずはさんが生まれたが、1年後に離婚した。それを機に2人で上京した。
娘が通う保育園で、保育士として働いた。
午前9時から午後6時までの勤務を終えて帰宅すると、食事を作る気力もなかった。スーパーの総菜で夕食を済ませ、翌朝、保育園に行くときの服を着せて娘を寝かせた。
そんな生活から抜け出したいと会計事務所に転職したが、娘としっかり向き合う時間は作れなかった。
「このままだと2人ともダメになってしまう」
娘が寝た後、上田さんは台所…