黄昏のスタテンアイランドフェリーの船上から望む、リバティ島の自由の女神像=筆者撮影

 玄関で手荷物検査を済ませると、小柄な黒人男性が仁王立ちで「来い!」と叫ぶ。くしゃくしゃにヨレた紙の名簿で氏名を検(あらた)められ、「パスポート!」と言われてしぶしぶ手渡せば、十数名分の旅券を雑に摑(つか)んで男は姿を消した。ここはニューヨーク市の合衆国税関。彼はグローバルエントリー(米国入国審査簡略化プログラム)の面接を捌(さば)く警備係で、おとなしく指示に従わねばならない。

  • 岡田育 ハジッコを生きる

 「ここで座って待機」「おい立つな、俺がベンチに座れと言ったら全員座るんだ」「退館まで自由行動と私語厳禁、階上ではトイレも使用禁止」「スマホや電子機器は鞄(かばん)に入れて触るな、空の両手を出して一列に並べ」と、看守気取りの命令でこちらも囚人気分になる。他者を一時的に支配して思うまま制御する愉悦に酔うことが、退屈な仕事の慰みなのだろう。同行の夫が「小権力」とつぶやいた。そう、小権力。真の力を振るう地位にはないが、だからこそ偉そうに振る舞う、小せえ男。

 女子校育ちの生意気な性根を…

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