(17日、第106回全国高校野球選手権大会3回戦、神村学園7―1岡山学芸館)
6点を追う八回、2死で打席に立った岡山学芸館の主将・竹下柚葵(ゆずき)(3年)は2球で追い込まれた。
だが、ここから粘りに粘る。3度のファウルでしのぎ、9球目を見極めて一塁へ歩いた。三回にセーフティーバントを決め、六回にもクリーンヒットを放っており、計3出塁。ただ、佐藤貴博監督は「あの場面で、あの四球が選べるのが学芸館の野球。あれが学芸館のキャプテンです」。一番地味な手段に、最大限の賛辞を贈った。
昨秋の新チーム発足時、竹下を主将に選んだ理由を監督は「『やりたがり』が多い代なんで、やりたくないと思っているやつを選んだ」という。自ら前に出るのは苦手だが「とても優しい男。やりたがりが皆で支えてやれ」という狙いだったという。
もう一つの決め手は、「小さいときから学芸館を見ていて、僕の考え方がわかっているから」。竹下の四つ上の兄、夏葵さんも学芸館の選手で、竹下は試合や練習をよく見に来ていた。だから監督は名字より「ユズ」「柚葵」と呼ぶ。
兄は2019年夏の甲子園に2年生ながら2試合とも先発。アルプス席から応援した竹下は「自分もこの舞台で」と誓ったという。
兄は新チームで主将になり、帰宅が夜遅くなることも。チームに尽くしたが、翌夏の甲子園はコロナで中止に。「目指すところがなくなって落ち込んでる姿に、なんと声をかけていいかわからなかった」と竹下は振り返る。
3年後、予想外の主将指名を受けた時、手本にしたのは兄の振る舞いだった。「自分に厳しく、人には優しく」。トイレ掃除やゴミ拾いに率先して動き、背中で引っ張るスタイルを貫いた。
北九州市立大でも主将を務めた兄は、岡山大会に合わせたかのように帰郷。決勝まで毎試合、車で送ってくれた。甲子園出場が決まったときは「楽しくて特別感のある、良いところだぞ」と声をかけられたという。
兄より1試合分多く過ごした夢の時間を終え、アルプス席に頭を下げた。「兄も含め、支えてくれた全ての人にありがとうと言いたい」(大野宏)