タイ北部を流れる河川で有害物質が検出され、人々の生活に深刻な影響が出ている。上流にあたるミャンマー側で進むレアアース(希土類)や金の鉱山開発が原因との見方が強まっているが、一帯は少数民族武装勢力の支配地とされ、健全な水質を取り戻すのは容易ではなさそうだ。

 「魚を買ってくれる人はいないよ」。タイ北部チェンライに住むトゥーンさん(70)は肩を落とした。約30年、近所のコック川で漁をしてきたが、汚染が報じられた4月、すぐに断念した。「川の水に触れるのが急に怖くなった」と言う。

コック川の汚染を受け、漁師の仕事を諦めたというトゥーンさん=2025年8月16日、タイ北部チェンライ、笠原真撮影

 「異変」は感じていた。例年3月には透明になるはずの川の水が、今年は茶色く濁ったまま。肌に異常を訴える漁師仲間もいた。農家でもあるトゥーンさんはコメや野菜づくりで生計を立てるが、収入は半減した。「川の水を使う作物も有害だとされたら、私たちの生活はどうなるのか……」

 3月以降、地元当局がコック川と、合流するメコン川で水質検査をしたところ、複数地点で有害性のあるヒ素やマンガン、鉛の濃度が基準値を超えていた。ヒ素濃度が最大で基準値の5倍超の地点もあった。当局は川に入らないよう住民に要請。地元メディアは7月、川魚を食べた子どもの体内から高濃度のヒ素が検出されたと伝えた。因果関係は不明だが、奇形の魚があがったとの報告もある。

高濃度のヒ素やマンガンが検出されたコック川=2025年8月15日、タイ北部チェンライ、笠原真撮影

 原因は何なのか。疑いの目は隣国ミャンマーに向けられている。

 北東部シャン州では鉱山開発が進む。特に注目されているのが、ミャンマーが中国、米国に次ぐ生産量を持つレアアースだ(2023年、米地質調査所)。電気自動車などに用いられ、世界中で需要が高まっている。

 タイ政府の専門機関は衛星画…

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