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結果のみならず内容の完成度も上がってきた芝野虎丸十段。「この感じを忘れずに生きていきたい」=25日、東京・市ケ谷の日本棋院
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 今夏の囲碁界は芝野虎丸十段がアツい。春先の十段獲得、無冠返上の勢いを駆って、続く本因坊戦、碁聖戦の挑戦権も獲得。一力遼本因坊には2連敗2連勝で盛り返し、井山裕太碁聖には開幕先勝した。昨年は番勝負に5回出場しながら全敗し「棋士人生最悪の年」に。今年、盤上に臨む心境はまるで違うという。周囲の熱視線をよそに、本人はちっともアツくないのだ。

 近年の日本囲碁界は一力、井山、芝野の3人で回っている。昨年の七大棋戦のうち6棋戦は、3人中いずれか2人のカードで占められた。芝野は最多の5棋戦に出場したが、一敗地にまみれた。井山には十段を、一力には名人を奪われ、碁聖、天元、王座の挑戦はことごとく退けられた。

 年間5回以上番勝負に出場した棋士は、七冠独占を果たした井山のほかに加藤正夫名誉王座、小林光一名誉名人、張栩九段、芝野がいる。すべて敗退したのは芝野だけだ。

 昨年10月の名人失冠で無冠に転落した際、棋士引退を「本気で考えた」という。もともと天才と称された少年時代も棋士一本で勝負する気構えはなかった。道場で碁漬けの日々を送ったが、ふつうの学校生活の憧れは常に持っていた。

 2019年、史上初の10代名人から瞬く間に三冠になった。転落も速かった。21年、王座失冠で無冠に。気持ちの張りを失い、引退が頭によぎった。当時、22歳。やめるには早すぎる。次にタイトルを取って、再び無冠になったときが引き際と思い定めた。そのときは、よもやの形で訪れた。

 22年に名人を奪還し、23年に十段を加え二冠に。そして運命の24年を迎えた。一力、井山との三頭並立から抜け出すべく次々に番勝負に出場し、すべて敗れ、再び無冠に転落した。

 すべての戦いを終えた年末年…

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