毎年春に開催され、ロレックスやパテックフィリップといった有名ブランドが集う世界最大の高級腕時計展示会ウォッチズ&ワンダーズ(WW)。日本から唯一参加しているブランドが、グランドセイコー(GS)だ。今年は「年差±20秒」という並外れた高精度の新作を発表して業界関係者を驚かせた。会期中の4月初旬、セイコーウオッチの内藤昭男社長が朝日新聞の単独インタビューに応じ、現代の腕時計の魅力やGSを含めたセイコーの今後の世界戦略を語った。
――今年の新作は「スプリングドライブ U.F.A.」。スイスを中心とした有力ブランドが機械式の新作を発表するなか、機械式とクオーツ式を融合させたスプリングドライブの時計を「今年の顔」にした理由は?
WWの日本勢は我々しかいない。3年前に初出展した際に「GSとして何を軸に世界に挑むか」と考え、王道の機械式を据えた。というのも、2020年に新しい内部機構の開発に成功し、ジュネーブ時計グランプリ(GPHG)にて、2021年に、「白樺(しらかば)」の愛称で知られる自動巻き機械式時計「SLGH005」がメンズウォッチ部門で大賞を獲得した。翌22年には世界初の複雑機構を搭載した「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」が、卓越した精度を備えた時計に贈られる「クロノメトリー賞」を受賞した。いずれも機械式であり、最初の方向性が正しかったことを証明できたと思う。時計ファンの間では世界的にGSの知名度も上がった。
一方で、次の段階としては時計にそれほど詳しくない人たちにもGSを知ってもらわないといけない。独自の個性を放つスプリングドライブモデルは、一般ユーザーに訴求する力があると考えている。
――その理由とは?
まずは、機械式に比べて圧倒的に高い精度が出せること。そしてセイコー独自の機構であり、他のブランドの時計には搭載されていないこと。こうした明確な優位性があることから、スプリングドライブを前面に打ち出していこうと考えた。
――16年から19年までセイコー社内で米国のトップを務めていた際にも、「時計に詳しい多くのメディアや愛好家の米国人から、『スプリングドライブの秒針の動きが非常に滑らかで興味深い』と評価される」と明かしていましたね。
はい。GSが北米で成功を収めたのはスプリングドライブが高く評価されたから。特に現地の若いユーザーが「スプリングドライブって、他にはないよね」と独自性に目をつけてくれた。そして、今回の新作「U.F.A.」では、特徴である精度を新たな次元に高めることに成功した。
以前、スプリングドライブの社内研究報告会があった際、私は「より上の精度を目指せないのか?」と発言してしまい、その会が紛糾したことがある(笑)。もちろん開発者たちが1秒の精度を求めて努力していることは理解していたが、より高い目標にチャレンジしたかった。そうしたなか、今回は「年差」という、いわば一桁違う新しい捉え方の機構が仕上がった。これはいける、と手応えを感じている。
高級時計の評価、以前は「機能的価値」。でも現在は「○○的価値」
――スマートフォンが浸透し…